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第21話:迎撃? いいえ、抽出です

晶たちがいるルミナ王国。


その隣国、軍事大国マカバリ・ヤシオ帝国。



その玉座の間にて、皇帝は重々しく報告書を読み上げていた。


「……ほう。隣国ルミナの辺境、アステル領に『救国の賢者』が現れたと?」


「ハッ。その者は『黒き軍団』を率い、未来を予知し、失われた古代技術を操るとの噂。さらに、彼が作り出す『魔法の石鹸』は、莫大な富を生み出しております」


「面白い。……欲しいな」


皇帝の目が、侵略者の色を帯びて光る。


技術も、金も、人材も、全て奪うのがマカバリ流の覇道だ。


「行け、帝国最強の暗殺部隊『影狼(シャドウ・ウルフ)』よ。その賢者を拉致せよ。拒めば技術を奪い、城を焼き払え」


「御意」


闇に溶けるように、数名の精鋭たちが姿を消した。



数日後の深夜。


交易都市アステル郊外の『魔王城せっけんこうじょう』に、人影が忍び寄っていた。


『影狼』の隊長は、月明かりに照らされたその異様な建物を見て、息を呑んだ。


「な、なんだあの城は……」


継ぎ目のない灰色の岩で覆われた巨躯。窓には鉄格子。


正門には、漆黒の鎧を着た黒薔薇騎士団(へ い し)が、殺気を撒き散らしながら巡回している。


それは工場というより、「難攻不落の要塞」だった。


「正面突破は不可能だ。……裏口から侵入するぞ」


隊長はハンドサインを送り、手下たちと共に死角となる裏庭へと回り込んだ。


そこには、誰もいない静寂な空間が広がっている。

地面には、白い砂利が敷き詰められているだけだ。


「フン、ザルだな。音もなく歩く我らに、砂利など無意味」


隊長はニヤリと笑い、体重を感じさせない「忍び足」で砂利の上に足を置いた。


その瞬間。


キィィィッ!!


「なっ!?」


砂利が、まるでガラスを爪で引っ掻いたような、甲高く不快な音を立てたのだ。


慌てて足を上げ、別の場所に置く。


キュウゥゥン!!


「バ、バカな!? 気配を殺しているのに、なぜ音が鳴る!?」


これは、晶が泥棒よけに撒いておいた『防犯砂利』だ。


ガラスの製造過程で出た廃材スラグを発泡させて作った軽石状の砂利で、踏むと粒子同士が擦れ合い、70デシベル以上の大きな音が出るように設計されている。


物理的な摩擦音であるため、忍び足の技術など通用しない。


「くそっ! まさかこの砂利……踏んだ者の『魂の波長』を感知して悲鳴を上げる『死霊の床(バンシー・フロア)』か!?」


「隊長! 見つかる前に突入しましょう!」


動揺した彼らは、近くにあった「排気口ダクト」の下へと走った。


ここなら音も聞こえないはずだ。


その時。


工場内では、結城 晶(ゆうき あきら)とテオが夜なべ作業をしていた。


「社長、煮詰まってきました!」


「よし。シャルロットからの追加注文……アステル侯爵(お父上)のための『薬用発毛剤』だ。薬効成分を逃すな」


鍋の中で煮えたぎっているのは、大量の『激辛唐辛子』と、生姜、そして高濃度アルコールだ。


トウガラシに含まれるカプサイシンが血行を促進し、毛根を活性化させる。


「……成分抽出(エクストラクション)、加速」


晶が火力を上げる。


煮沸によってトウガラシの細胞壁が壊れ、強烈な刺激成分が揮発して蒸気となる。


「目が痛いです社長! 換気扇、最大にします!」


「ああ、排気しろ」


ブォォォォォン……!!


強力な換気ファンが回り、カプサイシン濃度MAXの真っ赤な蒸気を、屋外のダクトへと吐き出した。

その直下にいた密偵たちを、悲劇が襲った。


「グアァァァァッ!?」


隊長が顔を押さえてのたうち回る。


「め、目がぁぁぁ! 喉が焼けるぅぅぅ!」


部下たちも次々と倒れ伏す。


高濃度のカプサイシン蒸気。それは現代で言うところの「催涙ガス」そのものだ。


粘膜という粘膜が灼熱の痛みに襲われ、呼吸すらままならない。


「ど、毒ガスだ……! しかも、我々の位置を正確に感知して『迎撃』してきただと!?」


「なんて高度な防衛システムだ……!」


彼らは知る由もない。


それが攻撃ですらなく、ただの「おっさんの発毛剤作りの余りカス(排気)」であることを。


涙と鼻水でグチャグチャになりながら、彼らは這いつくばって逃げようとした。


だが、その前方に、巨大な影が立ちはだかる。


夜の見回りをしていたポチだ。


「くんくん……。なんか辛そうな匂いがするのだ!」


ポチが嬉しそうに尻尾を振った、その瞬間。


彼女の背後から、銀色の魔力が陽炎のように立ち昇った。


それは瞬く間に凝縮し、「巨大な銀狼の幻影(オーラ)」を形成する。


幻影は月光を背負い、紅蓮の瞳で密偵たちを見下ろしていた。


「あそぼ! ボクと遊ぶのだー!」


ポチは無邪気に笑って、軽くじゃれつくつもりで地面を蹴った。


ドォォォォォォン!!


爆音と共に地面が陥没する。


ただの「じゃれつき」が、音速を超えた砲弾となって密偵たちに迫る。


「ひぃぃッ! 出たぁぁぁ! 伝説の神獣フェンリルだぁぁ!!」


「貴様らの魂を喰らってやる」と言わんばかりの大口に見える幻影と、物理的に殺しに来ている衝撃波。


「ギャアァァァァッ!!」


恐怖で泡を吹いた密偵たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


いや、吹き飛ばされて星になった者もいたかもしれない。


「あれ? 逃げちゃったのだ。つまんないのだ」


ポチが不思議そうに首を傾げると、背後のオーラも霧散した。



数日後。


マカバリ・ヤシオ帝国、玉座の間。


「へ、陛下……。あそこは、人の住む場所ではありません……!」


命からがら逃げ帰った隊長が、ガタガタと震えながら報告する。


「侵入者の魂を感知して泣き叫ぶ大地……。姿なき猛毒のガス……。そして城を守護する銀色の神獣……。あれは、難攻不落の魔要塞です……!」


「なんと……。帝国最強の手練れである其方らが、城壁に指一本触れることさえできず、赤子のようにあしらわれるとは……」


皇帝は玉座の肘掛けを握りしめ、戦慄した。


アステルの賢者、恐るべし。


こちらの戦力が「通用しない」のではない。「認識さえされていない(害虫扱い)」のだ。


「……あんな規格外の賢者を従えるルミナ王国と争うなど、正気の沙汰ではない」


皇帝は脂汗を流しながら、重臣たちに告げた。


「あのような怪物を手駒にする国と事を構えてみろ。こちらの命がいくつあっても足りんわ……!」


「では、陛下……まさか……」


「うむ。……直ちに外交官を派遣せよ!」


皇帝は生存のための唯一の決断を下した。


「恭順の意を示し、速やかに降伏を申し出るのだ! 貢物を山ほど持たせろ! 機嫌を損ねれば、明日にでもこの国は滅びるぞ!」


マカバリ帝国の覇道は挫かれるどころか、勝手に「下僕」へと成り下がった。



翌朝。


工場の裏庭で、晶は地面に落ちているものを拾い上げた。


「ん? なんだこれ。短剣? こっちは……黒い覆面か?」


さらに、焼け焦げたような跡や、地面がクレーター状に陥没している箇所がある。


「……タヌキか? 畑を荒らしに来た害獣が、防犯砂利に驚いて暴れたのか」


晶は首を傾げた。


最近、貴重な薬草ハーブを植えたばかりだ。荒らされてはたまらない。


「警備を強化しよう。……次は『高電圧柵』でも設置しておくか」


晶が物騒な独り言を呟いたことで、魔王城の要塞化はさらに加速することが確定した。


その数日後。


マカバリ帝国の外交官が、顔面蒼白で工場を訪れることになる。


彼らは山のような「貢物レアそざい」を献上し、震える声でこう言ったのだ。


「け、賢者様……! 我が国がルミナ王国に降伏することを、お許しいただけますでしょうか……ッ!?」


晶が「はぁ!? 知らんがな、王様の所へ行けよ!」と素っ頓狂な声を上げるのだが――それはまた、別の話である。

第1章・全38話完結保証しています。キリの良いところまでキッチリ読み切れます!


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第2章(ラーメン編)は執筆済みなので、第3章執筆のモチベーションに使わせていただきます。

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