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第13話:地震? いいえ、地盤改良です

「……ここか」


翌日。


結城 晶(ゆうき あきら)たちは、シャルロットが用意したという「工場建設予定地」に立っていた。


アステルの街から馬車で少し離れた、森の近くの広大な土地。


確かに静かで、環境は悪くない。


ただ一つ、致命的な問題を除いては。


「ひどいな。岩だらけじゃないか」


目の前に広がっているのは、土地というより「岩石地帯」だった。


大小様々な岩がゴロゴロと転がり、地面は波打つようにデコボコしている。雑草や枯れ木も生え放題だ。


「おいおい、ここを更地にするのか? 無理だぜ、旦那」


呆れたように首を振ったのは、ギルドから紹介された現場監督のドワーフ、ガンテツだ。


筋骨隆々の頑固親父で、土木工事のスペシャリストである。


「この岩盤を砕いて、地面を平らにするだけで三ヶ月はかかる。工場が建つのは冬になっちまうぞ」


「……三ヶ月だと?」


晶は白衣のポケットに手を突っ込み、眉間にシワを寄せた。


それでは間に合わない。シャルロットと約束した納期は来月だ。


何より、早くこの騒動を終わらせて、静かな書斎で執筆活動に戻りたい。


「待てないな。今日中に終わらせる」


「はぁ!? 今日中だと!?」


ガンテツが目を剥く。


「魔法使いを百人連れてきて『土魔法』を使わせても無理だぞ! 大地ってのはそんなに柔じゃねえ!」


「魔法使いはいらん。……『振動』があればいい」


晶は無表情で、荷馬車から奇妙な装置を下ろさせた。


それは、巨大な金属製のパイルに、晶特製の「共振発生装置」を取り付けたものだ。


動力源には、高価な『雷の魔石』が組み込まれている。


「リナ、下がっていろ。ポチ、あそこで泥遊びでもしてなさい」


「わふっ! 泥遊びするのだーっ!」


「アニキ、また変なこと始める気だな……?」


晶はまず、デコボコの地面全体に、近くの川から引いたホースで大量の水を撒き始めた。


「おや? 旦那、地面を清める儀式ですかい? 酒じゃなくて水でいいのか?」


「清めているんじゃない。土壌の『含水比がんすいひ』を調整しているんだ」


ドワーフたちが不思議そうに見守る中、晶は地面がタプタプになるまで水を吸わせると、装置の杭を敷地の中心に垂直に突き立てた。


「……いいか。土というのは、粒と粒が噛み合って固まっている。だが、そこに水分を含ませ、特定の周波数で振動を与え続けると、粒の結合が外れる」


晶は装置のスイッチに手をかけた。


アイスブルーの瞳が、足元の大地を物質として解析する。


「すると土は、固体としての性質を失い……『液体』として振る舞い始める」


晶がスイッチを入れた。


ズズズズズズズズ……!!


「うぉっ!?」


ガンテツがよろめく。


耳には聞こえないほどの超高周波音だが、そのエネルギーは凄まじい「振動」となって大地を揺さぶり始めた。


立っていられないほどの激震が、工事現場全体を襲う。


「じ、地震だぁっ!!」


「バカ言え! ただの揺れじゃねえ! この魔力の波長……!」


リナが青ざめた顔で叫ぶ。


「『地震(アースクエイク)』だ! 城壁すら崩落させる戦略級の土魔法だぞ! アニキ、まさかこの一帯を沈める気か!?」


「ひぃぃっ! 地面が怒ってるのだ! アキラが怒らせたのだー!」


ポチがリナにしがみつく。


雷の魔石から供給される膨大なエネルギーが、人工的な直下型地震を引き起こしていた。


「落ち着け。ただの共振だ。……構成式展開」


晶は冷静に、出力を最大に上げた。


杭を中心に、青白い波紋のような光が地面を走る。


「……チキソトロピー現象(ソイル・リキッド・)強制励起(バイブレーション)……開始」


ゴボッ、ゴボボボッ……!


次の瞬間、ドワーフたちの目が飛び出した。


「な、なんだぁっ!?」


「地面が……地面が溶けたぞぉぉっ!?」


激しく揺さぶられた岩場が、まるで「煮え立つスープ」のように波打ち始めたのだ。


大地が液状化し、泥の海へと変貌する。


そこで起きたのは、劇的な「選別」だった。


ズブブブブブ……!


まず、巨大な岩石たちが、悲鳴のような音を立てて沈んでいった。


泥水と化した地面には、もはや数トンもの岩を支える力はない。


比重の重い岩は、底なし沼に飲み込まれるように、自ら地中深くへと姿を消していく。


「岩が……勝手に沈んでいくぞ!?」


「見ろ! 逆に何か浮いてきた!」


岩と入れ替わるように、地中に埋まっていた古い木の根や、枯れ草などの「軽いゴミ」が、プカプカと表面に浮き上がってきたのだ。


それらは振動が生み出す泥の対流に乗って、どんぶらこと流されていく。


重い「異物(岩)」は深淵へ。


軽い「不純物ゴミ」は、波打ち際(敷地の端)へ。


まるで大地そのものが意志を持ち、自らの体を清めるために異物を吐き出しているかのようだ。


「わーっ! すごいのだ! ゴミさんがみんな逃げていくのだーっ!」


ポチが目を輝かせて、端っこに流れ着いた木の根っこを棒でツンツンしている。


一方、フローラは腰を抜かして震えていた。


「ああ……恐ろしい……。大地の怒りを呼び起こし、岩盤そのものを飲み込ませてしまうなんて……。これは国崩しの禁呪『大地溶解(グランド・メルト)』……! アキラ様は、地図さえも書き換えてしまうのですね……!」


「ただの比重選別だ。……仕上げだ」


晶は出力レバーを調整し、泥の海をならしていく。


邪魔な岩もゴミもなくなった純粋な土砂は、重力ポテンシャルの最小値を求めて、水面のように滑らかに広がっていく。


一切の凹凸を許さない、完全なる「水平面」。


「……よし。水平が出たな」


晶はスイッチを切った。


プツン。


振動が止まる。


すると、魔法が解けたように、ドロドロだった地面が、一瞬で「カチッ」と固まった。


粒子の結合が戻り、強固な地盤へと再構築されたのだ。


後に残されたのは、鏡のように平らで、広大な更地。


岩は深くに封じられ、ゴミは端に追いやられた、美しき「永遠の平原」。


「……終わったぞ。これなら基礎も打ちやすいだろう」


晶が白衣についた泥を払うと、背後でドワーフたちが膝から崩れ落ちていた。


ガンテツが、震える声で呟く。


「あ、ありえねえ……。荒れ狂う大地の精霊を、一喝して黙らせやがった……」


「見たか……? 岩がまるで恐怖したように、自ら沈んでいったぞ……」


「あの方は……『大地の支配者』だ……!」


現場は静寂に包まれ、やがて爆発的な歓声に変わった。


「旦那バンザイ! 大賢者様バンザイ!」


「これなら今日中に基礎ができるぞ! いや、もったいなくて踏めねえよこの聖地!」


ドワーフたちが晶を拝み始める。


その中で、フローラがうっとりとした表情で、完成した更地を見つめていた。


「素晴らしいですわ……。一切の不純物を許さぬ、完全なる水平……。これぞアキラ様の魂の形……」


フローラが、何気なく、しかし晶にとって一番痛い言葉を口にした。


「まさに、『永遠の平原(エターナル・フラット)』……!」


「ぶふっ!?」


晶が咳き込んだ。


晶がギルドに連れて行かれたとき、必死に隠蔽したはずの不名誉な称号『永遠の平原(エターナル・フラット)』。


そんな貧乳の隠語が、まさか、何も知らないフローラによって、しかも、こんな形で掘り起こされるとは。


「いい名前だ! この地を『エターナル・フラット』と名付けようぜ!」


「あやかりてぇ! 俺たちの技術も、この平原のように波もなく安定であれとな!」


ガンテツたちも盛り上がってしまう。


(……やめろ。その名前で呼ぶな)


晶は顔を引きつらせながらも、平らになった地面の感触を足裏で確かめた。


抗議したいが、ここで「それは私の胸のことだ」などと言えるはずもない。


「わふ〜っ! 冷たくて平らで、気持ちいいのだ〜! ここ、最高のお昼寝スポットなのだ!」


「……こらポチ、服が汚れるぞ」


「いいのだ! アキラも一緒に寝るのだ! アキラの胸みたいに平らで安心するのだ!」


「…………」


ポチの純粋な追撃に、晶は無言でチョップを落とした。


こうして、また一つ。


晶の「ただの土木工事かがくじっけん」が、アステルの職人たちの間で「神話」として語り継がれ、その恥ずかしい称号が正式な地名として地図に刻まれることになったのである。


第1章・全38話完結保証しています。キリの良いところまでキッチリ読み切れます!


続きが気になる、面白かったと思っていただけたら、

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第2章(ラーメン編)は執筆済みなので、第3章執筆のモチベーションに使わせていただきます。

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