表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

第9話:地獄の業火? いいえ、生石灰です

第9話のハイライト?

挿絵(By みてみん)

静寂の湖のほとりに、リナの舌打ちが響いた。


「チッ、ダメだ。全然つきやがらねぇ」


リナは火打ち石をカチカチと打ち合わせているが、積み上げた炭からは、頼りない煙が細く立ち上るだけで、一向に炎が上がる気配がない。


「湿気てやがるな。湖の近くだし、さっきの水飛沫もかかっちまったか……」


「アキラぁ……。イカさん、まだなのだ? ボク、もう待てないのだ。生のままかじっていいか?」


看板娘のポチが、空腹で目を回しながら、巨大なイカの足に食らいつこうとしている。


足元には、先ほど電気ショックで仕留めた新鮮な『大王イカ(クラーケン)』がある。


最高の食材を前にして、火がつかないというのは拷問に近い。


「やめろ、腹壊すぞ」


店主の結城 晶(ゆうき あきら)が、ポチの首根っこを掴んで引き剥がした。


「アニキ、火魔法でドカンとやってくれよ。このままじゃ日が暮れちまう」


「魔法なんぞいらん。……湿気ているなら、『水』で火をつければいい」


「はぁ? 水?」


リナが素っ頓狂な声を上げた。


「水かけたら余計に消えるだろ。アニキ、暑さでボケたのか?」


「常識に囚われるな。……見てろ」


晶はリナを押しのけ、湿った炭の山を少し崩した。

ポーチから取り出したのは、ゴツゴツとした「白い石の塊」だ。


晶はそれを炭の中心に埋め込み、その周囲に「黄色い粉末(いおう)」と、小瓶に入った「油」をたっぷりと垂らした。


「白い石に、黄色い粉……? 何の儀式ですの?」


紅茶を飲んでいたフローラも、興味深そうに覗き込む。


「ただの化学反応だ。……構成式展開」


晶は湖の水をコップに汲み、炭の山に向かって構えた。


アイスブルーの瞳が、分子レベルの熱エネルギー変換を見据える。


「……水和反応・発熱最大化ハイドレーション・ヒート・マキシマイズ


「おいおい、本気かよ!?」


リナが止めるのも聞かず、晶は無造作に水をぶちまけた。


バシャッ。


炭と、白い石が濡れる。


火を消す行為にしか見えないその行動。


だが、その直後だった。


ジュワァァァァァッ!!


「うわっ、煙!?」


リナがのけぞる。


水をかけられた白い石――『生石灰』が、猛烈な勢いで高熱の蒸気を噴き出したのだ。


生石灰(酸化カルシウム)は、水と触れると激しい化学反応を起こし、数百度もの熱を発する。


その熱が、導火線代わりの硫黄と油を一気に加熱し、発火点へと到達させた。


ボッ!!!


湯気の中から、爆発的な勢いでオレンジ色の炎が噴き上がった。


高熱によって炭の湿気は瞬時に蒸発し、種火は一気に燃え広がっていく。


「なっ!? 水をかけたら燃えた!? なんでだよ!」


リナが腰を抜かす。


水を燃料にして火が燃えるなど、この世界の常識ではあり得ない現象だ。


その矛盾した光景に、フローラが戦慄した。


「信じられません……。水属性の魔力を喰らい、自らの燃料に変えて燃え上がるとは……」


フローラの瞳に、揺らめく炎が映る。


「これは一度ついたら最後、対象が燃え尽きるまで決して消えることのない、伝説の『不滅の獄炎エターナル・ヘルファイア』……! アキラ様は、この炎を海に投げ込んでも燃やし続けることができるのですね……!」


(いや、水かけすぎたら普通に消えるけどな)


晶は心の中で訂正しつつ、うちわで風を送った。


炭が良い感じに赤熱し、BBQの準備は整った。


「火はついたぞ。焼くか」


「わーい! 魔法の火なのだ! すごいのだー!」


ポチが歓声を上げ、クラーケンの切り身を網に乗せる。


ジュゥウウ……。


食欲をそそる音と香りが立ち上る。


新鮮なイカが焼ける匂いは、それだけで暴力的なまでの魅力を放つ。


「よし。せっかくだから、少し彩りを加えるか」


晶は余興として、ポケットから数種類の粉末を取り出した。


銅貨の削りカス(銅)、ミョウバン(カリウム)、岩塩ナトリウムなどだ。


これらを炎の中にパラパラと投げ込む。


「……炎色反応フレイム・リアクション


すると、オレンジ色だった炎の色が、次々と変化を見せた。


ボッ。ボッ。


銅の鮮やかなエメラルドグリーン。


ミョウバンの妖艶なパープル。 


岩塩の眩しいイエロー。


焚き火の中で、毒々しくも美しい虹色の炎が乱舞する。


「わぁぁ! キレイなのだ! お花みたいなのだ!」


ポチが目を輝かせるが、大人の二人は反応が違った。


「げっ……。なんかヤバそうな色になったぞ。緑色の火で焼いた肉とか、食って大丈夫なのか……?」


リナが引きつった顔でイカを見つめる。


そしてフローラは、いつものように解釈を飛躍させていた。


「緑(風)、紫(闇)、黄(土)……。異なる属性のマナを、炎の中で完全融合させているのですわ……」


フローラが震える手で胸を押さえる。


「ただの火起こしに、これほどの高等術式を多重展開するなんて……。これが『五色の獄炎プリズム・ヘルファイア』……。アキラ様にとって、魔法とは呼吸と同じようなものなのですね……」


「色はただの反応だ。味には影響しない。……ほら、焼けたぞ」


晶は綺麗に焼けたイカを皿に取り、隠し味の醤油を垂らした。


ジュッ!


焦げた醤油の香ばしい匂いが、おかしな空気を吹き飛ばす。


「いただきますなのだー!」


ポチが熱々のイカにかぶりつく。


「んまーい!!」


ポチが叫んだ。


生石灰の高熱で一気に焼き上げられたクラーケンは、外はカリッと、中はプリッとした絶妙な食感に仕上がっていた。


噛むほどに溢れ出す濃厚な旨味に、ポチの尻尾がブンブンと振られる。


「……う、美味い!」


恐る恐る口にしたリナも目を見開く。


「見た目は毒々しいのに、味は最高じゃねぇか! 悔しいけど箸が止まらねぇ!」


「本当ですわ……。魔界の炎で焼かれたことで、魔物の肉の臭みが消え、旨味だけが凝縮されています……。これが『浄化の炎』の味……」


フローラも優雅に、しかし猛スピードでイカを消費していく。


「もっと! もっと焼くのだアキラ!」


「はいはい。食ったらちゃんと働けよ」


晶は苦笑しながら、虹色の炎に新たな炭をくべた。


静寂の湖畔に、パチパチという炭の爆ぜる音と、「おかわり!」というポチの元気な声が、平和に響き渡るのだった。


第1章・全38話完結保証しています。キリの良いところまでキッチリ読み切れます!


続きが気になる、面白かったと思っていただけたら、

ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援していただけると嬉しいです!


第2章(ラーメン編)は執筆済みなので、第3章執筆のモチベーションに使わせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ