アプリでの評価
オチが・・・オチが・・・
数年同じ商売をしていると変化に気づかないことが時々ある。
同業者なるものはいるのはいるのだが、どちらかと言えば、俺が一番有名だと思う。
俺の仕事は単純である。
ある大河の岸から向かいの岸まで、客を運ぶだけ。
それ以上でもなく、それ以下でもない。
何度でも言うわ、単純である。
支払いはその客の出身地によって、かなり違う。
1銀貨で支払う客がいれば、6つの銭貨で払う客もいる。
基本、俺からしたら価値が一緒なので、文句はない。
ずっと変わらず、この仕事をしている。
その男が来るまでは単調な毎日が続いていた。
男は若かった。丸眼鏡で頭は金髪に染めていて、服装は派手だった。
手に最近よく見かける道具を持っていた。
「おい、おっちゃん!反対側まで乗せてくれ!」
いきなり声かけられたのである。
「まずは運賃を払え」
「おい、おい、ぶっきらぼうじゃねえか・・・まあ・・いい、いくらだ?」
「銭貨、6つだ」
「高ッ!」
「ないのならば、最後の便まで待つことになるぞ」
「あるから・・・心配すんな・・・ただ高いと思っただけ」
「前払いだ」
「おう!」
若い男は先にお支払いを済ませた。
「乗れッ!」
男は船に乗って、前に座った。
「ちょっと接客考えた方がいいぜ・・おっちゃん」
「ずっとこのままやっている・・・イヤなら下りていいぞ」
「お殿様商売じゃん!!ダメじゃんッ!」
「イヤなら下りろッ」
「イヤじゃないぜ・・・ただ時代に追いついてないと思っただけ」
「ふん・・・出発する」
俺は船を動かして、出発した。
「ねえ、おっちゃん、Wi-Fi付いてる?」
「ウァイファイ?!ッ」
「なんだ・・知らんの?」
「電波飛ばして、インターネットに繋がるヤツだッ」
「デンパ?・・・いんたあねっと?」
「マジで知らんの?ッ」
「お前は何、わけわからないことを言っている!」
「その調子じゃ・・・アプリの存在も知らんだろう?」
「あぷり?ッ」
「メイドーバーってアプリだぜ・・・海外ではステュィクスーバーって呼ばれてんの」
「冥途おばあ?ッ・・・すてゆくすうばあ?ッ」
「ほら、これこれ!!」
男はいきなり手に持っていた道具を見せてくれた。
「この道具はなんだ?」
「スマートフォンだッ・・・まさか・・・それも知らんの?」
「知らないッ」
知らないことを認めるのは恥じゃないが、俺には恥ずかしい・・・でもこの若い男の言っていることの半分も分からないので素直に認める。
「ちょっと説明するわッ」
若い男は俺にゆっくりと説明した。
知らなかった・・・知らなかったのである。
「俺は知らなかった」
「ほら・・おっちゃんのプロフィールがあるぞ!!」
「ぷろふいいる?」
「あっちゃ・・・評価メチャ低ッ!!」
「ええ?」
男はその道具で俺に見せてくれた。
「★一つじゃん・・・最近客が少ないと思わなかったの?」
「確かに・・・」
「ほら・・・読んでみッ」
スマートフォン?と呼ばれる道具を渡され、自分でその評価とやら、読んでみた。
『船は古いし、Wi-Fiもないし、船頭は無表情だし・・怖い』
★モモンガ姫
『比較的長い距離だったのにアミューズメントがなく、退屈だった』
★さすらい刑事
『料金高い割、飲み物や茶菓子がなかった』
★課長・シマブクロ・ユウサク
『Wi-Fiぐらい付けてほしいわ』
★電脳ぎゃるぱみ
『シートが堅かった』
★尻男
『無口な男が怖かった、犯されると思ったわ』
★40代婚活女子マリコちゃん
『高い、無愛想、古い、シートが堅い、いいところなし』
★ロボット掃除機ルンバー男
『二度と利用しません!!』
★ギャンブラーケイジ
『お茶だしてほしかったわ』
★爽健ビチャ嬢
『ずっと変わらない良さではなく、ずっと変わらない偏屈さだ』
★辛口ピコリン
言われ放題である。
「ね・・・すごいこと言われてるぜ」
「あああ・・・知らなかったと言い訳にはならんな」
「今はこれが世の中の常識だぜ・・・大丈夫か、おっちゃん?」
「時代の流れか・・・てかここは世の中ではなくあの世な」
「それは関係ないな・・・商売ならアプリの評価を無視できないぜ」
「確かに」
その通り、その通りである。
「反対側に着くまでレクチャーするぜ・・・おっちゃんとなんだかんだ気が合うと思うので、いい評価と★を付けるよッ」
「ありがとう」
大河の岸に着くまで、男は俺に色々教えてくれた。
「俺のHNはピカリンだ、5つ★の評価付けるよ、おっちゃん!・・・楽しかった!!まずはスマートフォンを購入してね」
「ありがとう」
「てかカローンはHNなの?」
HNはハンドルネームの略であるのは覚えたのである。
「本名だ」
「そうか・・・本名か・・変な奴も来るかも知れないし、動画配信で評価低いもの晒して、からかう輩もいるので気を付けて!」
「分かった、色々ありがとうございます」
「おっちゃんはいい人だし・・・きっと成功するぜ!!」
若い男は船から下りえて、スキップしながらあの世へ向かった。
幸せの人生だったのだろう。
とりあえず、変わらなきゃな。今日は上がりだ。
船をフルリフォームし、電気コンセント、Wi-Fi、クッション、アミューズメントなどを付けなきゃな。
先ほども言ったは、俺の名はカローン、三途の川及びステュクス大河の渡し船の船頭だ。
今後利用したら、プロフィールに高評価よろしくッ!!
イマイチかな・・・