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ある日の公爵家


セレナが森で特訓している頃。

カエリウス公爵家の屋敷にある当主の執務室には、夫人が訪れていた。

窓から差し込む夕陽が部屋を赤く染める中、夫人はソファに腰かけ、メイドにお茶を淹れてもらう。

メイドが静かに退室すると、当主のルキウス卿が口を開いた。


「セレナは、今日も森へ行ったのか」


「えぇ。学園から帰るなり、急いで支度して出て行きましたわ」

夫人は少し心配そうに微笑み、お茶をひと口飲む。


ルキウス卿は短く息を吐き、窓の外に視線を向けた。


「……セレナの言っていたこと、あれは本当なのだろうか」


夫人はきゅっとカップを持つ手に力を込める。


「あなた、まさか、あの子の言葉を疑っているのですか?」


「いや、信じてはいる。だが――」

ルキウス卿は少し言葉を選び、低い声で続けた。

「ここ数日、殿下は普段通りに執務をこなしておられるようだ。会議でもお見かけしたが、操られているようには見えなかった。それに、セレナの言っていた糸も、私には見えなかった」


夫人は唇をかんだ。


「……それでも、あの子が嘘を言うはずがありません」


「わかっている。ただ……」

ルキウス卿は机の上の書類から目を離し、夫人を見た。

「急に婚約を破棄されれば、あの子がどれほど傷ついたか想像はつく。だからこそ、あの森へ行くのも……殿下との楽しかった思い出を振り返っているのかもしれないと思ってな……」


夫人は黙ってカップを見つめた。自分も同じことを思ったからだ。


「もちろん、殿下の様子は私も注意して見ておく。だが、今はあの子の気持ちが落ち着くまで、そっとしておこう」

当主は少し表情をやわらげた。

「好きなものでも夕食に出してやるといい。帰った時に少しでも笑顔が見られるようにな」


夫人はほっと息を吐き、やわらかく笑った。


「そうですね……そうしましょう」


執務室には、しばし静かな沈黙が流れた。

それは、娘の成長を心配し、見守る者同士の、穏やかな沈黙だった。

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