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婚約破棄されたことで、王子妃教育は「事態が落ち着くまで一旦中止」となった。

もちろん、私がそう願い出たのだ。

魔法の特訓のことは誰にも話していない。


けれどお父様は、私が王子妃教育をやめたいと言うと、

「今は無理に続けなくていい」と、あっさり頷いてくれた。

――本当は、私の気持ちを察してくれたんだろう。


週明け、学園へ行くと、私とレオンハルト殿下の婚約破棄の噂はすでに広まっていた。

学園には大臣や有力貴族の娘たちが多く通っている。

きっと、どこかから漏れたのだろう。


最近まで、私の周りには「未来の王子妃」に取り入ろうとする女子生徒が群がっていたのに、

今はまるで蜘蛛の子を散らすように姿を消した。

その代わり、遠巻きに私を見ては、ひそひそと囁き合う。


(……別に、寂しくなんてない)

(どうせ、みんな最初から私のことなんて好きじゃなかった)


そう思おうとするけれど、胸の奥がひりひりする。


「欲深い女」「王家を滅ぼす悪女」「傲慢な女」――

レオンハルトの贈り物が豪奢になってから、陰でそう言われるようになった。


学園で起きる些細ないじめの噂も、

「セレナ様の指示だ」「取り巻きがやったに違いない」と、

まるで決めつけるように囁かれていった。


レオンハルトもカイルも学園を卒業してしまった後だったから、

否定してくれる人は誰もいなかった。

気が付けば、私は友人と呼べる人は1人もいなくなっていた。


卒業すればレオンハルトの隣に行ける、それまで耐えればいい――

そう信じていたからこそ、今の現実はひどく堪えた。


ひとりで昼食をとり、ひとりで教室を移動し、

休み時間は陰口を聞き流しながら過ごす。

喉の奥がつんと痛んで、涙が出そうになる。


「……泣かない、泣かない」

小さく呟いて、拳をぎゅっと握る。


落ち込んでいる暇なんてない。

婚約破棄されたことは悲しい。

噂や視線に晒されるのは苦しい。

それでも、今はそれよりも大事なことがある。


――レオンハルトを助けなくちゃ。


深呼吸をして、気持ちを立て直す。


学園での授業を終えた私は、屋敷に戻るとすぐに制服のまま森へ向かった。

西の空は茜色に染まり始め、森の中は薄暗く、虫の声が響く。

けれど、怖いとは思わなかった。


(魔法を使えるようになりたい――)


胸の奥に小さな炎が灯るような感覚を抱きながら、

私は草木をかき分け、マルグリットの小屋へと歩みを進めた。


ドアを叩くと、奥から「入れ」と短い声。


小屋の中では、マルグリットさんが机に向かって座っていた。

机の上には分厚い本がいくつも積まれていて、まるで学者の研究室みたいだ。


「今日はこれを読んでもらう」


差し出されたのは、羊皮紙でできた重たい本だった。


「え、座学!? 魔法を教えてくれるんじゃないの?」


思わず声が大きくなる。

するとマルグリットさんは、深いため息をついた。


「これも立派な魔法の修行だ。

お前は魔法について、何も知らないのだろう?」


「でも、私……早く魔法を使えるようにならないと」


「何も知らずに魔法を使おうとするのは、自分も他人も滅ぼす行為だ」

マルグリットさんの声がぴしゃりと響く。


「魔力が暴走すれば、自分の体を壊す。

場合によっては、周りの森ごと吹き飛ばしかねない。

お前はレオンハルトさえ救えれば、他はどうなってもいいのか?」


「そ、そんなこと思ってません!」


「なら学べ」

冷たい声に、私の言葉は止まった。


「レオンハルトを救う魔法を身につけるためには、

基礎を飛ばすことはできない。他の魔法も通らねばならない」


それは、いきなり目的の魔法だけを覚えるのは無理、ということだ。

私は唇をかみしめ、こくりとうなずいた。


「……わかりました」


マルグリットさんは満足そうに頷くと、本を指さした。


「魔法は、使う者が危険を知り、理解して使ってこそ真価を発揮する。

何も知らぬ者には扱わせない――それが私の流儀だ」


講義は思ったよりも難しかった。


魔法を生み出す力――魔力――は、

自分の中と、空気や草木など自然界の中に宿っていること。


属性は「地・水・火・風・雷・氷・光・闇」の8つがあり、

魔法を使うときは、自分と自然の魔力を集めて濃くし、形にして放つこと。


闇属性は魔王や魔族にしか扱えず、

私が学ぶべきは光属性――ただし、光の魔法を使えるようになるには、

他の属性の魔法を一通り習得しなければならないらしい。


「魔力量は人それぞれだ。

足りない者が無理をすれば倒れるし、下手をすれば死ぬ」


マルグリットさんは本を閉じ、私をじっと見た。


「今日は魔力量を測るところから始める。

お前の限界を知るのが先だ」


そう言って、彼女はまたあのガラス玉を取り出した。


(……あの日みたいに、光るかな)


少し緊張しながら、私は両手で玉を包み込んだ。

読んで下さりありがとうございます。面白かったら☆評価お願いします! 

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