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1 幸せな日々は突然に

フツーの生活だと思ってた。両親と手を繋いで花盛りの庭の中を散歩するのが好きだった。


父と母はとても仲が良く、おしどり夫婦と有名だった。太陽のような柔らかい雰囲気をまとい亜麻色の髪と瞳を持った母は、子爵である父に見染められ結婚したのだった。父はいつも母からのプレゼントの外套を羽織っていた。外套は父と私の瞳の色と同じ、深い紫だった。


人と関わることがあまり好きではなかった私は、基本的に領地から出ることはなかった。

この国では力の差はあれど誰もが異能という能力を持ち、その中でも才能のある者はオストンという特別な学校にいく。私は人並み程度の能力しかなく、家庭教師をつけてもらい勉強を行っていた。家族3人、当たり前のような穏やかで暖かい時間が流れていった。


私が14歳になる頃、王太子妃が当時、ブルバディア王国で流行していた原因不明の感染症にかかった。皇帝は何とか最愛の妻を救おうと国中の医師を集めありとあらゆる手を尽くした。

そんな話をどこか他人事のように私は聞いていた。そして、気づいた時には母は病気に感染していた。元から心臓があまり強くなかった母はあっという間に容態が悪化し、父は馬を走らせ王都まで医者を呼びに向かった。


母は自分が死ぬことを悟ったように、私にゆっくりと語りかけた。

私は一人ぼっちじゃないと。父がそばにいて、母が見守っているのだと。愛していると。

亜麻色の瞳が糠星のように輝いた。そうして私の頭を優しく撫でた母は、父が戻る前に静かに息を引き取った。


あまりの出来事に憔悴しきった私は部屋にこもり、父とですら話すことを拒絶した。すぐに父すらも殺されるとも知らずに。


父は馬車で崖から転落死したと伝えられたが、その事に違和感を持った私は幼い頃から私の世話係として仕えているリーリエを問いつめた。そしてリーリエは私にゆっくり話し始めた。


少し前から上級貴族が襲撃され、家族諸共殺されるという惨い事件が立て続けに発生し、世間を騒がせていた。事件の詳細については隠されていたが、父はその事件を起こしたリーヴェルという反皇帝派の組織に殺されたのだ。

この国には魔物が多く巣食う、西の森があり、その入口で血だらけになりビリビリに破けた深い紫の父の外套が残されていたのだという。遺体も残されず代わりにそこにはリーヴェルのもの達が使う異能の残滓が残されていたのだという。


リーリエは話終えると涙で潤んだ目で私を真っ直ぐ見つめた。

視界が少しずつ霞んでいく。頭が痛い。痛いはずなのにその感覚が遠く離れ、感情が私を閉じ込めるかのように押し寄せる。

父も母もいない世界で生き続ける意味はあるのか。ひとりで生きる意味はあるのか。怒りだろうか。憎しみだろうか。もう死んでしまおうか。そう思ったら気持ちが楽になる。

父はどんな気持ちだっただろう。妻をなくし、母から貰った外套は血で汚れ破られ、深い深い悲しみの中で死んでいったのではないか。



------------------許せない、




どうせ死ぬなら道連れにしてやる








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