表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

断罪イベントは姉がぶった切りました。

作者: ななかまど


 ある日突然、天啓が下った。



『このままでは妹が泣く』



 私はそばにあった剣を取り、ティーセットを整え王城へ向かった。


 ぎょっとした顔で振り返る貴族たちを無視して、大ホールへと躍り出る。


 すると、わが愛しの妹を指さしながらふんぞり返っている我が国の王子と、どこの馬の骨とも知らぬ令嬢の姿が見えた。



「ユフィーリア!」



 思わず大声で妹の名を叫んでしまった。貴族令嬢らしからぬ振る舞いだが、妹の一大事だ。いまはどうでもいい。



「お、お姉さま…。」



 あぁ、なんて可哀そうに。目に涙を浮かべて今にも倒れそうなユフィーリアに慌てて駆け寄る。



「なっ!また現れたな、シスコン姉!」



 王子が何やら騒いでるが私の耳には入ってこない。



「大丈夫だった?まぁ泣かないで、ユフィーリア。お姉さまが何とかしてあげますからね。」


「いや、泣いてないだろ。」



 ホールの端から何やら声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。



「またこのクソ王子がやらかしたのね?今すぐお姉さまが成敗して差し上げるわ!」



 屋敷から持ってきた剣を構えて、王子に向かって振り上げる。



「いやいや、ダメです!反逆罪で一族郎党死刑です!!!」



 後ろから強い力で羽交い絞めにされる。また邪魔してきたわね、この男。私の護衛騎士のくせにちっともいうことを聞かないんだから。



「愛しの妹が悲しんでいるのに、放っておけないわ!」


「だからって、剣なんか持ち出して何を考えているんです……!?」



 あまりに必死な顔で止めてくるので、仕方がなく剣を下ろして振り返る。



「というか、貴方なんで動けてるの?」


「へ?」



 騎士はぽかんとした間抜け面であたりを見回す。



「ほ、他の人は、固まってる?」



 私の視線の先では、断罪イベント真っ最中だった王子と令嬢が、まるで時を止められたように動かなくなっていた。空中には、揺らぐ文字列が浮かんでいる。



   《シナリオ分岐:王子の高慢な宣言(ユフィーリアの社会的死)》



「あら、やっぱりスクリプト可視化されてるわね。このまま叩き斬れば、ノー断罪エンドにできるわ。」



 私は何の躊躇もなく剣を振り上げた。



「ちょ、ちょっと待ってください!何の説明もなしに何してるんですか!?」


「さっきから邪魔してばかりね、貴方。いいから黙ってみてなさいよ。」


「いやいや!どう考えてもおかしいでしょう、この状況!」



 耳元でやかましいわね。まぁ時間は十分にあるし説明してあげてもいいか。



「いい?この剣はね、ユフィ―リアに降りかかる、すべての不幸を修正できる魔法の剣なのよ。」


「………はい?」


「だから、この剣は…。」


「いや、聞こえていましたけれども!!」



 聞こえなかったのかもと思って親切に言い直してあげたのに、さっきから失礼過ぎないかしらこの護衛騎士。



「え?お嬢様はいつからそんな魔法が使えるように??」


「ついさっきよ。」


「ついさっき!?」



 そう、まさに天啓。一瞬意識を失ったかと思ったら、私の頭の中に膨大な量の情報が流れ込んできたのだ。


『この剣を使えば、お前の妹は救われる』


 考えるより先に、身体が動いてこの王城までやってきたのだ。すると手の中の剣がうっすら光って私に語りかけた。剣を振るって運命を書き換えなさいって。



「そこで気づいたのよ、あ、この世界って乙女ゲームなのねって。」


「乙女ゲームって何ですか!?」


「とりあえず、この剣に触ってみなさいよ。見ればわかるわ。」


「は、はあ……。」



 疑わしい目で私を見ながら、彼はそっと剣を握った。そして、王子と令嬢の頭上当たりに目を留めて、あほみたいに口を開いた。



「……な、何だこれ……文字、ですか……?」



 彼の瞳に映ったのは、空中に漂う不可視の光線が凝縮されたかのような、まばゆい“テキスト”だった。


   《分岐発動条件:王子、特定台詞を発することで断罪イベント進行》

   《進行度:93% ※反逆行為により進行停止中》



「ほんとに見えたのね。ふふっ、じゃあ貴方も“この世界の外側”をちょっとだけ覗ける側になったってこと。」


「ど、どういう……っ!」



 彼の喉がうまく動かず、思い切り咳き込んだ。


 私はそのすきに剣を奪い返すと、またもや剣を高く掲げた。



「ま、後は実演あるのみよ。」



 そして、スクリプトに向かって――優雅に、かつ全力で一閃。


 瞬間、光が弾けて紙片のような文字列が散り、王子のドヤ顔が“ぽふっ”という音とともに宙へ飛んだ。



「なっ、なにをする気だお前っ!?」


「え?ごめんなさい、王子。スクリプトがなかったので、あなたの次のセリフが用意されていませんの。」



 私が悪いのではない。運命が削除されたのだ。



「というわけで、断罪イベントは中止。あなたたち、そのまま舞踏会の片付けでもしておきなさいな。」



 呆然と立ち尽くす王子と令嬢を尻目に、私はユフィーリアの手を取って微笑む。



「さ、帰ってお茶にしましょう。おいしい焼き菓子の用意もあるのよ。」


「お姉さま……また何か壊しませんでした……?」


「平和のためよ。」



 ユフィーリア、安心して。私があなたのために、最高のハッピーエンドへ導いてあげますからね。  


 


End……?












「……って、え、あれ!?お、俺の腕、透けてません!?ねぇ!?」


「あ、もしかしてスクリプト外の存在になっちゃったかもね。」


「ちょ、やばいやばい!!消えるの!?え、消えるの俺!?」


「安心して。私が新しいルートを用意してあげるわ。**“ヒロイン(の姉)と結ばれるバッドエンド”**ってやつ」


「待って!やっぱ剣返して!!」




シスコン姉:クラリッサ

妹:ユフィーリア

護衛騎士:ノア



唐突に思いついたネタなので、大したオチはありません。


護衛騎士の次のルートは未定です。……たぶん姉次第。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ