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退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中  作者: ユーコ
退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中

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16.アルヴィン3

 防疫と共にアルヴィンは魔法の生活利用について取り組んだ。

 砦に楡の木荘で見た乾燥室を作り、一部の暖房を薪から火の魔石に、明かりを蝋燭や油から光の魔石に切り替えたのだ。


 この国は攻撃魔法が至上とされて、それ以外の用途で魔法を使うことをあまり好まれない。特に使用人達がするような仕事に魔法を使うのを、魔法使いは『下級』と嫌がる風潮がある。

 それに貴重な魔法使い達が消耗しないように、戦闘時以外の魔力は温存させるのが、ゴーラン騎士団のみならず、他騎士団でも暗黙の決まり事だった。


 長年の慣習を変えるのだから、アルヴィンは「相当の反対があるだろう」と考えていた。

 しかし蓋を開けてみると、生活魔法の行使を砦の魔法騎士や魔法使い達はアルヴィンが思うより、すんなり受け止めた。

 デニスが上手く調整したということもあるが、寒い砦でケチケチ薪を使うより、魔石で思う存分ぬくもりたいと快適さが優先された。


 戦闘に使う高純度の魔石は宝石に匹敵する程高価だが、暖を取る程度なら純度の低い魔石で事足りる。

 砦のような輸送費が高くつく場所では、薪と比べても安価なくらいだ。

 例年より暖かい砦の生活は騎士達からも好評で、アルヴィンはこれを他の施設でも運用していく予定だ。




 アルヴィンは楡の木荘に二週間に一度程度通ったが、多忙な合間を縫ってのことだったので、決まった日にリーディアに会えるわけではなかった。

 現に前回の訪問から丁度二週間後のその日、アルヴィンは楡の木荘ではなく、ダンジョンにいた。


 ダンジョンは異界と繋がっていると言い伝えられていて、そこから人を襲う悪しき魔物が這い出てくる。

 ダンジョンは発見次第その核となるダンジョンコアを破壊し、消滅させるのが本来の対処方法だが、ゴーラン領はいくつかのダンジョンをあえて維持している。



 魔物の皮や肉や骨、魔石、ダンジョン内に生息する鉱石や植物はダンジョン内でしか採取出来ない貴重な素材として珍重されている。それらを目当てに冒険者達はダンジョンに潜り、魔物達を狩る。さらに商人や職人達も集い、町が出来る。

 ダンジョンはゴーラン領の産業の一つでもある。

 しかし一つ間違えば諸刃の剣となるダンジョンは慎重かつ適切に管理していかねばならない。


 ダンジョンを持つのは有事の際に対処できる強力な騎士団を持つ領にだけ認められた特例である。

 定期的にダンジョンに潜り、魔物の間引きをし、ダンジョン内に何か異常がないか確かめるのもゴーラン騎士団の任務の一つだった。


 アルヴィンが潜ったダンジョンは踏破に五日という中型ダンジョンだ。

 アルヴィン達は八名ほどの部隊を組んで、ダンジョンの最下層にあるダンジョンコアを目指した。

 アルヴィンが前線に出るのは一部の側近が非常に嫌がるのだが、アルヴィンは強力な闇属性の魔法騎士だ。

 ダンジョン内は魔素濃度が高く、魔素を魔力として溜め込む質を持つ者――要するに魔法使い――は魔力酔いという状態異常を起こしやすくなる。

 ある程度は慣れや魔力酔い薬で解消出来るが、弱体化(デバフ)は避けられない。

 ダンジョン内ではむしろ、装備を調えた魔力持ちでない騎士の方が有用な場合もあり、中央部の騎士達は攻撃魔法の能力が高いことが至上とされているが、辺境部では魔力なしの騎士達も重用されている。


 ダンジョン内は火、水、風、土、光、闇の全ての属性の魔素濃度が高い場所だが、中でも闇属性の魔素が突出して濃い。

 魔力酔いは過剰に濃いダンジョンの魔素濃度で、魔法使いの体に取り込まれた別属性の魔素がきちんと排出されずに体内に滞留するため起こると言われている。闇属性の魔法使いは同属性のため、この魔力酔いを起こさず、さらに魔素を吸収して強化される。


 アルヴィンは地上でも優れた魔法騎士だが、ダンジョン内では最深部の魔物とも一人で互角に戦える程強い。

 アルヴィン以上にダンジョン向きの魔法騎士はゴーラン騎士団にはいない。

 アルヴィンが行った方が早いし確実なので、渋々これを認められている。




 今回の作戦の目的は、魔物の間引きとダンジョンコアに異常がないか確認すること。

 だがそれ以外にアルヴィンはもう一つ、魔水晶採掘という目的があった。

 魔水晶は光魔法の補助となり、特に回復魔法を増幅させる効果がある。

 ダンジョンの最下層近くまで潜らないと採掘出来ないため、稀少な鉱石だった。

 もちろんリーディアに土産として持って行くつもりだ。

 ダンジョン任務は危険な代わりにダンジョン内で目当ての素材を持ち帰ることが許されている。



 闇属性を持つアルヴィンは回復魔法が得意ではない。闇属性は生気吸収(エナジードレイン)という、その名の通り、他者の生気を奪う魔法を回復魔法として覚えるのだ。

 やろうと思えばアルヴィンは人の生気を奪い、死に至らしめることが可能だ。もちろんそんな真似は出来ないので、闇属性の魔法使い達がまず覚えるのは、己のドレイン魔法を制御することだった。

 ドレイン系の魔法はそのままでは他人に使えない。そこでリバースと呼ばれる魔法手法を使い、自分の生気を他者に与えることで回復させる。


 魔法の術式としてはかなりややこしい部類に入り、制御も難しいので闇属性の魔法使い達は他人を回復させるのが苦手なのだ。

 一方リーディアは光属性を持っている。

 魔水晶があれば魔力の乏しいリーディアでも躊躇せずに回復魔法が唱えられるはずだとアルヴィンは思った。



 だが、リーディアは魔水晶をアルヴィンが思いも付かない方法で使った。


 会えば会うほどリーディアに惹かれていく。

「アルヴィンと呼んでくれ。リーディア」


 クルミの木の下で二人きりになった時、アルヴィンはリーディアを抱き締めた。


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退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中
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