巨大狼討伐完了!?焼肉は無理でした
ハティは黒焦げになって地面に転がっていた。
呆然としている周囲を見渡し、シャルは言った。
「なあ、これって食べれるかな?」
「無理でしょ。見ろよ、消し炭じゃないか。」
ルイは耳に手を当てたまま、軽く答える。
「いや、中はいい感じに焼けてるかもよ。焼肉状態とか?」
シャルはそう言うと、冗談のつもりか本気か、ハティの死体を切り刻み始めた。
「やっぱり、無理だな。全部黒焦げだ。」
シャルがため息をつきながら言う。
「だから言ったでしょ?」
ルイは呆れたように返し、次いで耳から手を外して苦言を呈する。
「それより、いきなりあんな強力な呪文を放つのやめてくれませんか?爆発音だけでもビビりますよ。アイシュたちもびっくりしてたし。」
「アイシュは慣れてるから平気だろ。だいたい、剣も通じないし、ファイアボールも効かないんだからしょうがないだろう?しかも怪我した人間に向かってきてたんだから、余裕なかったんだよ。」
シャルはハティの肉を無駄に刻みながら言い訳する。
「とにかく、ありがとう。」
二人のやり取りに気後れしながらも、魔導剣士風の男が口を開いた。
「俺はネスト。冒険者だ。仲間を助けてくれて感謝してるよ。」
握手を求めて差し出す手を、ルイは軽い調子で握り返した。
「ルイ・エンクリヌルスです。騎士団員。お仲間が無事で良かった。」
「いや、無事とは言えないだろう?」
シャルはルイの言葉に反論しつつ、倒れた女性冒険者に近づく。
「でも、あのハティ相手に死人が出なかっただけでも、良かったじゃないか?」
ネストが苦笑いを浮かべながら同調する。
「それもそうだが…」
倒れている女性冒険者は息も荒く、非常に苦しそうだ。
「ハティの毛がかすって腹を切ったんだ。俺はアサフスって言います。シクロ、大丈夫かな…」
泣きそうな顔で若い冒険者が言い、もう一人の仲間も不安そうに近寄ってくる。
ネストが神妙な顔で、シクロの傷を見て言った。
「止血して回復を待つしかないな。この状態で街まで運べないし、シクロ以外に回復魔法が使える人間もいない…あとは本人次第だな。」
皆が黙り込む中、シャルが深い溜息をつきながら口を開く。
「しょうがないな。」
シャルは周囲の人間を見渡しながら言葉を続けた。
「ここで、これから起こることは、絶対に他言無用だ。」
そう言うと、鎧を脱ぎ、ピアスを外してルイに渡し、剣を地面に突き立てた。
「???」
周りが不思議そうに見ていると、シャルは無言で呪文を唱え始め、女性冒険者の周りに淡い光が集まりだす。
「ヒール(治療)」
シャルがそう呟くと、女性冒険者シクロの傷が瞬く間に癒えていった。
「今の…何だ?」
ネストが驚き、声を上げかけるが、シャルは冷たく睨みつけて言う。
「他言無用だ。」
「…わかった。」
ネストはおとなしく頷いた。
シャルは再び鎧とピアスを身に着けながら、淡々と続ける。
「ただ、傷は塞がったが出血が多かった。しばらく動かない方がいいな。この森にいても危険だし、私たちの野営地に来るといい。近いし安全だ。」
「それは…いいのか?」
ネストが確認するように尋ねると、シャルは肩をすくめた。
「邪魔しなければ問題ない。」
「まあ、邪魔しても別にいいけど。」
「シャルさん…」
ルイが残念そうにぼそっと呟いた。