狼の剛毛は剣をも弾く、ファイアボールも効かないどうする?
シャルはルイに、冒険者たちのフォローをするよう合図を送った。このハティの力は未知数だが、何とかなるだろう、いや、何とかしなければならない。
巨大なハティに剣で対峙するのは分が悪い。ハティの弱点は火だ。普段は騎士団として剣に頼るが、今回は魔法を使うしかない。シャルが呪文を唱えようとした、その瞬間――ファイアーボールが飛んできた。
「キャン!」
ハティが怯む。
「大丈夫か?」
声の主は若い冒険者風の男性。年は20代前半、シルバーの髪と瞳が月明かりに照らされ、やけに際立っている。剣士の格好だが、その魔法の腕前を見るに、どうやら魔導士らしい。
ハティは怯んだものの、すぐに警戒体制に戻った。ファイアボールではかすり傷一つついていないようだ。
「ファイアボールで傷もつけられないとは…」
冒険者の男性は驚いた様子で呟く。ファイアボールは初心者向けの魔法だが、それなりの威力があり、通常のハティならダメージを与えるはずだ。
「もう少し強力な魔法を使わないとダメかもな?」
彼はニヤリと笑いながら、少し意地悪そうに言うと、新たな呪文の詠唱を始めた。
だが、その詠唱が終わる前にハティが動いた。見た目に反して俊敏な動きで、まっすぐ彼に向かって突進してくる。
「ちっ!」
冒険者は舌打ちをするが、詠唱が間に合わない――そう思った瞬間、ルイが冒険者の前に立ちはだかり、剣を振るった。
「カッキーン!」
ハティの毛が剣を弾き返した。
「すごい剛毛だ、剣が効かないなんて」
ルイが感心したように言うと、シャルは小声でぶつぶつと呪文を唱え始めた。
邪魔されたハティは一層激昂し、今度はルイを狙うかと思いきや、怪我をした冒険者に向かって突進を始める。
「やばいな」
シャルは瞬時に動き、ハティに追いつく。ハティが怪我した冒険者に牙を剥いたその刹那、シャルが間に割り込み、呪文を放った。
「地獄の業火!」
爆音と共に、猛炎がハティを包み込み、一瞬で地に倒れた。その衝撃で周囲の木々が揺れ、鳥たちが飛び立ち、小動物たちは一目散に逃げていく。