野営だよ、ごはんはおいしい方がいい
野営生活は、訓練生にとって重要な学びの一つ。特に食事は、生き残るために必須のスキルだ。
「今夜のメニューはシチューとパンだ!」ルイが訓練生たちに指示を出す。訓練生たちはそれぞれ野営食を作るため、すぐに手分けして準備を始めた。彼らは持ってきた食材を使い、初めての野営食づくりに挑戦する。
だが、その表情には不安が浮かんでいる。普段の訓練で体を鍛えることには慣れているが、料理の腕には自信がないのだ。
「おいしいの、できるかな……」訓練生の一人がぼそりと呟き、別の訓練生も「こんな少ない食材で、どうやって?」と眉をひそめている。
「心配するな、何度かやればすぐ慣れるさ。ただ、最初はまずいかもしれんがな。まあ、お手本を見せてやるよ。」シャルは軽く笑いながら言ったが、その言葉は事実だ。これまでの経験から、初めての野営食はほぼ例外なく「まずい」か「微妙」だ。
訓練生たちは班に分かれて、試行錯誤しながらシチューを作り始める。各班には騎士がついて指導することになっている。
シャルの作るシチューはお手本なので、シャルは自らの鍋を火にかけた。彼女の動きには無駄がなく、手慣れた様子で材料を切り、絶妙なタイミングで鍋に放り込む。さらにどこからかか何か葉っぱのようなものを持ってきて、鍋に入れていた。
シャルが一口味見をすると、自然と顔に笑みが浮かぶ。長年の遠征で鍛えた彼女の料理スキルが、ここでも光を放っていた。
訓練生たちは、その香りに引き寄せられるようにシャルの鍋の方に集まり、ゴクリとつばを飲んだ。しばらくして訓練生たちのシチューも出来上がるが、誰もが自分の料理に自信がない様子で、スプーンを手に取るのをためらっている。
「…あの、小隊長のシチュー、少しだけ分けてもらえませんか?」訓練生の一人が恥ずかしそうに尋ねた。
「こら、訓練生の癖に、隊長のシチューを狙うんじゃない!」と別の訓練生が冗談混じりに笑うが、全員が実は同じことを考えている。
「年季が違うからな」とルイは胸を張って、鍋を見せびらかすかのように持ち上げた。
さらに「お前たちもそのうち、これぐらい作れるようになるさ。でも、今夜はお手本として特別に、少しだけ食わせてやる」といった。
「なぜ、お前がそういう?作ったわけでもないのに・・・」シャルが半ば呆れながら聞く。
そう言った瞬間、訓練生たちの目がギラリと光り、戦場で見せるはずの緊張感が漂い始めた。
「俺が先だ!」
「いや、私が!」
「順番守れよ!」
あっという間にシチューを巡る小さな争奪戦が始まってしまった。
いつの間にかルイがシャルの作成したシチューを真っ先に食べていた。
「お前が食べてどうする!自分の班のを食え!」とシャルがルイに怒っている。
その先でアイッシュがしれっとシャルのシチューを食べていた。
シャルは呆れたように、
「本当に戦うのは、ゴブリンじゃなくてシチューの方だったか」と呟いた。
しかたがないとという感じで、美味しくなさそうな訓練生の作成したシチューに味を足して、食べられるようにしていく。
そうしてシャルは訓練生にあがめられた。
「なんか、嬉しくないのはなぜだろう」