『いただきます』は家族の印
おにくと申します( *・ω・)ノ
最近忙しかった全ての元凶です
何回もボツにしたり書き直したり削ったりして疲れました(-_-;)ハァ…
削る作業はこれができてからしたので完全版です!
人の形は大体同じ。
それに嫌気がさして形を変えようと努力する人は、新しい形へとなっていく。
その新しさは、他人には理解されない。理解できない。
だから、せめて私だけでも向き合ってあげないと――
私は平凡な社会人の長谷川冬華。
今日も早起きして弁当を作っている。
自分と息子と娘、三人分だ。
自分と子供たちの分を作るのはなかなか骨が折れるが、慣れてしまえばどうってことない。
中身が毎日似たような感じにはなるが。
「おはよ、父さん」
「おはよう、春生。今日も早いな」
息子の春生が起きてきた。
制服を着て、髪も整えられて、準備万端って感じだ。
春生は運動神経抜群、成績優秀、家事も手伝ってくれるという超ハイスペック。
父親として鼻が高い。
「早寝早起きは健康な暮らしの基本でしょ?しかも今日は卒業式だよ」
「まぁ確かに。で、秋奈はまだ寝てる?」
「多分。隣からうっすら寝言聞こえたよ。まだ食べられるもん、だってさ」
「ははっ秋奈らしいな」
秋奈は娘の名前だ。
元気いっぱいで誰からも好かれやすい性格をしている。
私は彼女の笑顔で何回も癒されてきた。
「じゃあもうちょっと待とうか」
秋奈が起きてくるまで、私と春生は朝の家事を済ませておいた。
「おはよぉお父さん。ふぁ〜……」
「おはよう、秋奈。寝不足か?」
「うん、ちょっとね」
「ほどほどにしなよ。ほら、髪ぼさぼさ」
「えっやばっ、ちょっと整えてくる!」
ドタドタドタと秋奈は洗面所へ向かった。
「朝から騒がしいな、あいつ」
「ちょっとハル、聞こえてるからね!」
「はは、やっぱり二人とも双子だからか似たもの同士で息ぴったりだな」
「アキと似てるってのはちょっと心外だ」
「ちょっと、それどういう意味よ!?」
「はいはい、朝ごはん出来てるから座って二人とも」
秋奈も髪を整え、椅子に座った。
『いただきます』
この三人で朝ごはんを食べるのは日課だ。
これがなければ一日が始まらない気がする。
「んっやっぱりこの家族団欒の時間が一番幸せ……美味しいご飯に美味しい味噌汁……」
「食べ物にしか興味無いのかアキは」
秋奈と春生の会話は穏やかな気分になる。
双子だからか、性格は真逆でも相性抜群で仲良し。
「お母さんもバカだよね。こんな幸せを手放すなんてさ。お父さんの料理は世界一美味しいのに」
私は離婚した妻の笑顔が頭に浮かんだ。
そう、私と妻は離婚したのだ。
ただ、喧嘩別れとかではなく、少し価値観がズレていてお互いに苦しい状況に立たされ、その上でしっかり話し合って決めたことだ。
今はたまに会って話をする、ちょっと照れくさいが友人と言える間柄である。
だが、そのことを二人には伝えていない。
だからきっと二人は勝手に出ていった母親をあまり好いてはいないだろう。
『ごちそうさまでした』
食器を片付けて、秋奈と春生は準備を済ました。
「じゃいってきます、父さん」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。私も後で見に行くからね」
玄関のドアが閉まると、私は不思議な感覚に襲われた。
「もう高校生か……早いな」
離婚したのは二人が中一の頃。
そこから一人で育てていこうと決めて、もう二年近く経っている。
「親って、こんな気持ちだったのか」
私は今更ながら親の気持ちを理解できた気がする。
離婚の原因は価値観が合わないことだった。
ある日、中学一年生だった秋奈は私に「男の子になりたい」と言いにきた。
春生は妻に「女の子になりたい」と言ったらしい。
私は頭がごちゃごちゃしてしまって、誤魔化すことしかできなかった。
妻も同じく一時的にその場を凌いだ。
すぐに緊急両親会議を開くことになった。
「春生にはまっすぐ男の子として育って欲しかったの……」
そのときの妻の表情は悲しそうで記憶に残ってる。
あの悲しみは春生の発言に対してなのか、それとも春生を受け入れられない自分に対してなのか、私にはわからなかった。
妻の言いたいこともわかるが、子供たちを否定したくはない。
「私が二人を育てるよ。君の分までがんばるから。そんな辛そうな顔しないでくれ」
妻はその夜、眠りに落ちるまで涙を流した。
翌日、落ち着いた状態で話し合いお互いのために離婚を決定した。
「ごめんなさい。あなたに全部押し付けるようなことをしてしまって」
「全然いいよ。これも家族のためだから」
正直に言うと悲しい気持ちは少しだけあったかもしれない。
未だに思い出してしまう私の好きな人。
もっと方法はあったのではないかと無いものに縋ってしまうほどに私はあの人を愛していた。
だけど、これも全部家族のためだ。
誰も間違っていない。
私はそう心に言い聞かせた
「二人に言わなきゃいけないことがある」
そして現在。
男手一人で育ててきた二人は何事もなく成長し、春から高校生になる。
ひとまず安心といったところだろうか。
「さて、私もそろそろ行こうかな」
私は子供たちの成長の一歩を見届けるため、支度を始めた。
まだ少し寒い朝の景色は桜の花びらによって彩られていた。
俺は長谷川春生。今日から高校生になる平凡な子供だ。
毎朝六時前に起き、ストレッチをしてから俺の一日が始まる。
いつでも登校できるように身支度を済ませて、俺はリビングへ向かった。
「おはよ、父さん」
「おはよう、春生。やっぱり早いな」
「父さんには負けるよ」
父さんはいつも俺より早く起きて朝ごはんを用意してくれている。
というよりほとんど父さんが家事をやっている。
うちに母親はいない。どうやら離婚したらしい。
理由は分からないが、きっとやむを得ない事情があったのだろう。
それか俺のせいかもしれない。
「この皿洗っとくね」
「ありがとう、助かるよ」
とにかく全部任せるのは流石に申し訳ないから朝の間にできることは手伝うことにしている。
「おはよ、お父さん」
「おはよう、秋奈。しっかり眠れたか?」
「大丈夫大丈夫!」
双子の妹の秋奈が起きてきた。
これが朝食の合図だ。
『いただきます』
日常の一幕を過ごす時間は幸せを感じるものだ。
これまでと何も変わらない光景に安心する。
『ごちそうさまでした』
皿を片付け、カバンを持って席を立つ。
秋奈も俺に続こうと、急いで準備を始めた。
玄関で秋奈を待つ。スマホを片手に、朝のニュースでも見ながら。
秋奈が靴を履いたところで俺はスマホをポケットの中に押し込んだ。
「いってきます、父さん」
「行ってきまーす!」
「うん行ってらっしゃい。気をつけてね」
ガチャンとドアを閉めて、俺たちは新たな学び舎をめざして歩き始めた。
見上げれば少し緑が見え始めた桜が、足下には立派な花を咲かせたたんぽぽが、俺たちの道を作ってくれているようだ。
「アキはしっかり課題やったか?」
「やったよ!成長したねぇ私も」
秋奈はやけに大袈裟に頷いて自分を褒めた。
「それで成長って言うのもおかしな話だな」
「私からしたら立派な成長なの!」
いつものバカな会話をしていたら、いつの間にか学校の目の前まで来ていた。
俺たちは少しの緊張と好奇心にかき立てられながら、正門を恐る恐るくぐった。
昇降口はもう俺たちと同い年の少年少女たちでごった返している。
秋奈がはぐれないように手を繋ぎ、人の間を縫って行く。
耳に届く雑音はまるでテーマパークに来たみたいだった。
やっとクラスの貼り紙までたどり着いた。
「ハルと同じクラスじゃん!やった!」
どうやら秋奈と同じクラスのようだ。
危なっかしい秋奈を見守れるようで安心した。
俺たちは満員電車の中のような昇降口を抜け、スリッパに履き替えて一年二組の教室まで来た。
そーっと教室の扉を開けた。
今日から高校生になる。
俺は順調にクラスに馴染んでいた。
もう一ヶ月が過ぎてグループが固まりつつある中、俺は上層の小規模グループに入ることができた。
ある程度カーストが高いグループは居るだけでも苦労するが、俺は大抵のことはできる。
高めのカースト維持なんて造作もない。
秋奈も大丈夫そうだ。
純粋な性格で次々と仲間を増やし、もうカースト最上位のグループの一員となっていた。
多分本人は無意識だろう。
ひとまず安心した。
「ねぇ今日帰りにゲーセン行かない?」
俺が入っているグループの一人が誘ってきた。
「いいなそれ!春生はどうする?」
「悪い、今日はちょっと用事あって。明日なら全然大丈夫だから」
「そっか、じゃあ明日ね!約束だよ!」
「ああ、約束な」
俺はスクールバッグを肩にかけて教室を出た。
こんな順調な俺にも悩みはある。
それは金銭面だ。
だから今日は帰りに良いバイト先を探そうと思っていた。
秋奈と父さんに連絡を入れ、いつもと違う道を歩く。
コンビニ、居酒屋、花屋……
どれもしっくりこない中、高校から少し離れた場所に華やかな店があった。
俺は一瞬で心を奪われた。
『高校生バイト募集中!』という貼り紙を見て、俺はここにしようと決意した。
「ただいま」
「おかえり、春生。もうご飯できてるよ」
春生が少し遅く帰ってきた。
今日は夕方から夜にかけて長く雨が降るらしいから、無事でよかったとホッと胸を撫で下ろす。
「ハル遅いーお腹空いたー!」
「悪かったな、早く食べよう」
『いただきます』
何やら春生が考え込んでいる。
箸がまったく進んでいない。
「春生どうした、体調でも悪いのか?」
「いやそんなことないよ」
そう言って春生は覚悟が決まったような表情を見せ、私の目をまっすぐ見つめた。
「父さん、夕飯の後ちょっと相談がある」
「……わかった、聞こう」
「ありがとう、父さん」
春生の顔を見るに重要なことなのだろう。
子供が真剣ならこっちも真剣に向き合うべきだ。
『ごちそうさまでした』
春生を私の部屋に呼び、春生と私は向かい合った。
「相談とはなんだい?」
「俺にバイトをさせてください」
私はそこまで驚きはしなかった。
そろそろ言い出す頃だと思っていたから。
「どこにするかは決めてあるのか?」
「はい、ここです」
ただ、これは予想外だった。
春生が見せてきたお店のホームページにはかわいらしい文字で『メイドカフェ』と書かれていた。
「無理を言っているのはわかっています。それでも俺はここで働きたいんです」
妻の話が蘇る。
私は春生の幼少期の覚悟がここまでとは思っていなかった。
「春生はずっと悩んでたんだな……」
「え?」
「昔母さんに女の子になりたいって言ったって聞いたけど、最近はそんなこと言わないなと思ってたんだ。でも春生はずっと言わないようにしてたんだろ?」
「……父さんとも離れてしまうことが怖くて言い出せなかったけど、今までその気持ちを捨てたことは一度もないです」
今の春生は少し怯えた表情をしていた。
春生は自分の発言で母が出ていったことを後悔して、父も失ってしまったらどうしようという不安をずっと抱えていたのだ。
「気付けなくてごめんな……」
私は父親失格だ。本当に申し訳ないことをした。
「わかった。バイトを認めよう。自分のやりたいように、生きたいようにいきなさい」
「ありがとうございます」
春生は深々と礼をして部屋を出た。
「ということはそろそろ……」
ガチャと音がして部屋の扉が開いた。
「やっぱり聴いていたのか」
「盗み聞きしてごめん。私も相談があって」
私は長谷川秋奈。現役女子高生。
高校生になって数週間が経った。
楽しく高校生活を満喫していた私だけど、小さい頃から悩んでいたことがある。
私はかっこよくなりたい。
具体的にいうとハルみたいなイケメンになりたい。
顔も性格もハルみたいにかっこよくて優しく。
でも私は昔からかわいがられていてかっこよくなる方法を知らない。
顔もイケメンっていうよりはかわいい感じだ。
だから私はもう諦めかけていた。
学校では明るく元気に振る舞った。
周りのイメージ通りになるように。
でもある日、思いがけないことがあった。
(ハルがずっと女の子になりたいと思っていたなんて!)
ハルがお父さんに真剣な顔で相談があるとか言っていたから気になって盗み聞きしてしまった。
私は衝撃だった。
私と同じように周りに合わせていたハルが、私と同じような想いを持っていたんだ。
双子はやっぱり似たもの同士だ。
「ありがとうございます」
ハルが話を済ませたのか部屋から出てきた。
ハルは今までで見たことがない心からの笑顔だった。
「アキも頑張れよ」
その耳打ちだけ残してハルは自室に帰っていった。
「私にも、できるかな……」
ハルのように想いをカミングアウトしたり、ハルのようにやりたいことを「やりたい」って言えたり。
できるはずだ。
だって双子は似たもの同士だから。
私は勇気を振り絞ってドアを開けた。
「やっぱり聴いていたのか」
「盗み聞きしてごめん。私も相談があって」
ハルが背中を押してくれた今、私は何でもできる気がする。
「私、男の子になりたい。かっこよくなりたい」
これを口に出すのは二度目だ。
あの日、お父さんに言った日から心に閉じ込めて一度も手放さなかった言葉。
お父さんに言ったところで具体的な対応は用意していないが、とにかく伝えたいと思った。
お父さんは困るだろうか。あの日のように誤魔化すだろうか。それとも、私を捨てるのだろうか。
あれだけ自信があったのに、想いを言葉にした瞬間からネガティブな想像が次々と浮かび上がってきた。
(ハルはすごいなぁ)
やっぱりハルのようにはなれない。
この重圧に耐え抜いて己を貫き通したハルのようには。
そんな弱い今の私はきっと捨てられる。
静かな室内に雨の音が響く。
「ごめん、やっぱり今のは……」
「秋奈、こういうのに興味はない?」
今まで黙っていたお父さんが机の上のノートパソコンを開き、とあるページを見せてきた。
それは私たちが通っている高校の演劇部の紹介ページだった。
写真がいくつか貼られてある。
演目は『ロミオとジュリエット』だろうか。
「このロミオって……!」
「そう、二人の高校の演劇部は今は女子しかいないらしいんだ。だから男の役を女子がしてるんだよ」
そうだ。どうして気付かなかったのだろう。
演劇でなら、かっこいい男の子にもなれる。
自分の理想に近付ける。
「どうだろう、演劇の道に進むのは。本気で続けたいと思うなら私もちゃんと手伝うからさ」
ここで私は涙が溢れた。
安心して、希望を持てて、お父さんの優しさに触れて。
今なら私はこの想いを捨てなくて本当に良かったと心から言える。
「私やるよ。演劇の道、本気で進む」
私もそのとき、初めて心から笑うことができた。
元妻と私はいつもの穴場のカフェで話している。
「最近、あの子たちはどう?」
「二人とも夢に向かってたくさん努力してるよ」
二人の相談から数ヶ月。
外はすっかり紅葉の季節だ。
窓から見える紅葉の葉は静かに揺れている。
「そう、よかった」
彼女は二人が嫌いになったわけではない。
今の安心したような表情から二人を愛していることが伝わってくる。
だからこそ二人に嫌われたままなのは悲しいと思った。
「今日は君に紹介したい人がいてね」
「紹介したい人?」
私は後ろの席に座る男女二人を手招きした。
「高校生になった春生と秋奈だよ」
「春生と秋奈……!?」
「母さん、久しぶり。俺こんなに大きくなったんだよ」
「お母さん、久しぶり……」
少しぎこちない言葉で親子が再会した。
彼女は唖然とした表情のまま固まっていた。
そこで先に動いたのは春生だった。
春生は頭を下げる。
「ごめんなさい、母さん。俺の一言で辛い思いをさせた。本当にごめんなさい」
「わ、私もよくわからなくて、お母さんを嫌いになっちゃって、ごめんなさい!」
続けて秋奈も頭を下げた。
「……私の方こそごめんなさい。あなたたちを突き放して、何も言わず出ていってしまって。心配かけたわよね」
彼女も頭を下げた。
そして三人は抱き合って涙を流した。
これで仲直りはできただろうか。
ひとしきり泣いた後、私は提案した。
「さてみんな。仲直りの印として久しぶりにこの四人でご飯を食べようか」
「さんせーい!」
「それいいね」
「私まで、いいのかしら……もう家族でもないのに」
やっぱり抵抗があるらしい。
一度離婚しているから当然といえば当然かもしれない。
「何言ってるの、私はもう家族だと思ってるよ!」
「俺も。母さんは母さんだよ」
「子供たちもそう言ってるみたいだし、もう一度家族になろう。悠夏さん」
二度目のプロポーズ。
彼女は涙を見せながら笑顔で。
「……またこれからもよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
「じゃあお母さんも、せーのっ」
『いただきます』
どうでしたか?
いつもの性癖暴露小説とは少し違いますよね
こういうのも書けるんですよ!というアピールです(`・ω・´)ムンッ!
次はまたセイギとギセイの更新だと思います!
次回も楽しみに!(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク