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06... 入るしかありません。


 再び旅を始めて、目的地の王都に到着。


 魔族が滅びつつある世界では、王都への侵入は簡単だった。

 昼間に至っては城下の門は開けっぱなしだし、門番なんて欠伸をしている。

 ここまで辿り着く魔族はもう居ないのだろう。魔族の残党狩りが進んでいるとどこかの村長が言っていた。


「で、オレらはどこ行けばいいの? このままアマノハラ楽園?」


 魔族と人間の転換薬のビンに刻まれたアマノハラ楽園の紋章。すべての頼りはそこだ。


「簡単に言いますが、行くことはできます。しかし入ることは難しい。楽園は関係者しか入れません。入園するのが手っ取り早そうではあります」

「いいじゃん。それでいこ」


 ぱんっと手を打ってはい決定。はい出発と踏み出した一歩は服を引っ張る手によって制止を強いられる。


「何かに秀でた人間しか入園出来ないとか。優等生の楽園ですよ」


 当然人間として優等生だろう。一気に難易度が上がる。


「……それってさぁ、オレら入れんの?」

「真実に辿り着くためには入るしかありません」

「そんなこと言ったって」

「入るしかありません」

「二度言わなくったって」

「入るしかありません」

「……」

 圧、強。



 とりあえず今日は宿屋に泊まることにした。ふかふかのベッドに身を任せ、唇を弓形に折る。

 文句を垂れ流していたって入園出来るわけでもなければ、他に何か手掛かりがあるわけでもない。

 まさにやるしかないということ。人生一本道。


 宿屋の人間の話によると、入園試験は随時行われている様子。何でも、自分が得意とすることを試験官に見せる一発勝負の試験らしい。

 生半可な特技じゃ合格にはならない。


 身じろぎしながら目を瞑り思考する。

 単純に聖なる力の扱いならば、それは人間の方がどうしたって優れている。昨日今日生まれ変わりましたという赤ん坊が逆立ちしたって優等生と呼ばれるのは難しい。……ギョーセーなら分からないけれど。


 ん〜、と唸っていれば早々に就寝したギョーセーからうるさいなとぼやきが放たれる。


 オレにしかできない、と考えたところで視界は暗転。

 考え事はいつも睡魔に邪魔される、人間はどうにも不便だ。





「どうするか考えてきましたね?」


 アマノハラ楽園の門戸の前で、腕を組んだギョーセーに問われる。圧、強。


「まあ。そっちこそ、大丈夫なの?」


 悪条件はギョーセーだって同じだ。しかし、まるで意にも介さずふんと鼻を鳴らしている。小さなナリになっても態度は一流だ。もともと器用な奴だから、聖なる力もとうに使いこなしていることだろう。


「僕の心配をしてくれるなんて余裕じゃないですか」

「はいはい。オレだって、オレなりに考えてき」


「きゃああああっ!」


 次ぐ言葉を遮るように甲高い悲鳴が空から落っこちる。二人揃って空を仰いだ。


「そこ退いてーっ!」


 涙混じりの切羽詰まった声はちょうど真上から。オレたちが対応するより先にその声の主が降ってきた。ギョーセーの上に。

 ぐえ、とカエルの潰れたような声。


「あ、ああ……ひいっ、子ども潰しちゃった!」


 ギョーセーの上に乗っかった人間は顔面蒼白に、目尻に雫を溜めてそう喚く。まあ……これは死ぬのかな……?

 人間の尻に敷かれたままの仰向けのギョーセーは、驚いたように目を見開いて固まっていた。大丈夫、たぶん生きてる。

 ただすごく驚いている。そりゃ空から人間が降ってくるなんて考えてもみないよな。分かる。


「ごごご、ごめんなさぁい! まだ着地がへたで! 怪我は!? 痛いところは!? 頭打ってない!?」


 上にのった人間が両手をかざすと、忽ち手のひらに光が集う。恐らく聖なる力で治癒を行おうとしているのだろう。

 この場合、治癒でどうにかなるのか。


「あの……先ず、退いていただけますか。よいしょ」

「わっぷ!」


 ギョーセーが指をくるりと回せば、聖なる力が発動して人間がころんと半ば横に転がっていく。

 起き上がったギョーセーは土埃を払って衣服を直して佇まいを直して直して、直して。

 ぺたんと座り込んでいる人間に声を掛けた。


「問題ありませんよ。軽くぶつかった感じはありましたが、あなたの重さは感じませんでした。浮遊、の力ですか?」

「あ、うん。そう。踏んじゃう前に浮遊が間に合ったんだ……。……ううん、ほぼ踏んだようなものだよね?」

「気にしないでください」

「でも」

「問題ありません」


 昨日からずっと圧が強すぎる。いや、もともと圧の強い魔族だったな。

 口を噤む選択肢しか残されていない人間はすっかり閉口。どこかの村で叱られた犬がこんなしょぼくれ方をしていた。

 ギョーセーが小さく息を吐くと、座り込んだ人間に手を差し伸ばす。珍しい対応だ。しょぼくれた犬は無言で眺めていたのに。なんなら「卑しいですねえ」なんて感想を述べていた。

 ばっと表情を明るくする人間の手を掴み引き起こしてあげる。土埃もそのままに笑みを浮かべた人間は、自身の両手を胸の前で握り合わせた。


「ありがとうっ。わたしはジウ。きみたちは? きみたちも、試験を受けにきたの?」


 重力に逆らって、まるで各々意志があるように宙を舞う薄茶色の髪。腰まで届きそうな髪先は黄色に煌めいている。

悪意など知らなそうな笑顔のまま、目の前の人間は応えを待たんと僅かに首を傾げてみせた。


「オレはコクー。こっちはギョーセー。そう、試験受けに来たとこ。ジウも?」

「ジウさん」

「ジウさんも?」

「ジウでいいよ!」

「ジウも?」

「そうなのっ! ひとりで心細かったから、知り合えてうれしい! コクー、ギョーセー……って、わたしも呼んでいいかな? 良かったらいっしょに行かない?」

「いいよ。いいよね?」

「いいですよ」


 ジウはふふふっと嬉しそうに口元を曲げて笑みを形作る。よろしくと差し出された手を一瞥して、ギョーセーに倣い緩く握った。

 本物の人間と試験を受けた方が怪しまれないはず。だからギョーセーは珍しく手を差し出したのかな。

 飛ぶように、いやほとんど飛びながら身を翻すジウの背中に付いていく。

 オレとは幾分も身長差がありそうだけれど、飛んでいるからそうは感じさせない。



 今まで見たどの人間より、魔族より、身軽そうだな。



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