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03... オレ、一回やってみたかったんだよね。乾杯。


 あの魔王のお腹に空いた穴にそんな理由があったなんて。


 オレが到着した時には勇者と魔王しか居なかった。目的を果たして早々に離脱したのか。人間側はあくまでも勇者が魔王を倒したとしたいみたいだ。


「ふうん、話は分かった。お前は魔族に化けて魔王を殺したクソやろうを見つけたいわけだ」

「そうですね」


「そりゃうかうか消えてらんないね。でも、もしかしたら、もうそいつ死んでるかもよ」

「一生仇を取れないと声高に言っていたくらいですから、きっとその人間は既に安全な場所に移動したのでしょう」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。お前を怒らせるために適当に言っただけかもしれない」

「……そうであっても、魔王を殺したやつが生きてるか死んでいるか、確認くらいはしたいじゃないですか」


 銀髪の魔族が僅かに睫毛を下げる。憎しみなのか悲しみなのか、その深層の部分にある心理までは読み取れない。

 兎にも角にも話を進める。やるかやらないかより、出来るか出来ないかの方が今は重要だ。


「うん。方法でもあるの?」

「同じように人間に転換してしまえばいいのです」

「人間になったからって、あれだけ大量の人間からどうやって目的の奴を探すんだよ」

「すべてを知っていそうな人間のいる目星は付いています」

「どこ?」


 目前の石畳の上に布袋が置かれる。


「袋とビンには紋章が刻まれていました。王都にあるアマノハラ楽園の紋章のようです」


「アマノハラ楽園……?」


「有名な施設ですよ。強い力の持ち主や広い知識の持ち主が通われているようです」


 示された布袋には確かに見慣れない紋章があった。

 銀髪の魔族がその紋章を長い爪の指先でつつつとなぞる。


「質問ばっかで悪いんだけど、なんでオレを誘ったの? オレ以外にだってまだ生き残り、いるでしょ」

「人間に手を加えられる前に、魔王城を破壊するためにここに来て、偶然、あなたが居たから。それだけです」

「えー、ほんとーにぃ?」

「……あなたなら、この話にのってくれると思ったんです。あなたはさっさと人間を滅ぼしたかったようですから」

「生まれ落ちてからずっと戦ってるの見てるんだよ? 早く次に進んだ景色が見たいじゃん」

「そうですね。人間に情を抱くことがなさそうだから、あなたなんです」


「ふうん? ふん? ま、いいけどさ。じゃあ、乾杯してみよ。オレ、一回やってみたかったんだよね。乾杯。人間がやってるの見て」

「始めての人間の真似ということですか」


「ってーか、この薬飲んで本当に大丈夫? ってかてか、オレら魔族は人間みたいに食ったり飲んだりできないけど摂取できるんかな。ちなみにマジに人間なると思ってる? 人間から魔族にはなれても、その逆は無理な可能性のが高いんじゃない。最早摂取したら消えるかもね。 なに、罠?」



「ああもう、うるさいな。遅かれ早かれ、どうせ死ぬんです」



「それは一理ある」



 命乞いする寿命も無いのだ。明日を賭けよう。


 うまくいこうとも、いかなかったとしても、もうどうだっていい。だって、この状況を変えようとしない限りただ消え行くだけの存在だ。

 この先を何も見ることが出来ずに、消えてしまうだけだ。


 からん、二つのビンが小さくぶつかって涼やかな音を響かせる。何も無いがらんどうな魔王城の一室にはまるで不釣り合いな陽気さ。



 始めての乾杯は、味わうまでもなく意識を遠のかせた。




 まるで罪を喰らうように、身の内から燃え爛れていく。



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