いよいよ国王に会う
大廊下には、他の多くの城と違って絵画や彫刻といった装飾品がまったくない。石の床と壁、左手には扉が、右手には切り抜かれた窓が等間隔に並んでいる。
(そうよね。ここは駐屯地ですもの。ムダに飾ったりはしないわよね)
キョロキョロしながらそのことを思い出した。
大廊下をつきあたりまで進むと、大きな木製の扉が見えてきた。
どうやら、この扉の奥が居住区のようである。
その木製の扉の前にも二名の兵士が立っている。
これまでと同じように敬礼と答礼があり、その後扉が開けられた。
その奥もまた廊下が続いているけれど、先程の大廊下に比べればあたたかみがある。等間隔に設置されているロウソクの灯が、あたたかみを添えているのかもしれない。
大廊下にはロウソクはなく、切り抜かれた窓から入り込んでくる月光と篝火の光だけだった。
またしばらく歩いたところで、パーシーの足が止まった。
わたしも慌てて立ち止まる。
「ここは執務室の一つで、陛下が執務室として使っている部屋です」
そのなんの変哲もない木製の扉の前には、兵士は立っていない。
彼の手が離れ、扉を開けた。
控えの間だった。
ローテーブルをはさんで長椅子が二脚、そして、チェストがあるだけのオーソドックスな部屋である。
「こちらに。陛下に知らせてきます」
パーシーが手前の長椅子指し示したので、素直にそこに座った。
その瞬間、急に緊張してきた。いいえ。緊張が増したといった方がいいかもしれない。
心臓の鼓動が耳にうるさい。心臓が胸の辺りで飛び跳ねているようにさえ感じられる。
緊張の中、パーシーとチャーリーは奥の扉をノックした。
「入れ」
低く凄みのある声。
その短い一語が、わたしの心臓をさらに飛び跳ね暴れさせる。
(お腹の虫といい心臓といい、暴れすぎよ)
心の中で呆れ返ってしまう。
緊張でどうにかなってしまいそうな中、二人はなかなか戻ってこない。
それがいい兆候のように感じられないでいる。
ときが経てば経つほど、よくない想像ばかりしてしまう。
「どうぞ。お入り下さい」
このタイミングでチャーリーが奥の扉から顔をのぞかせなかったら、どうにかなってしまったかもしれない。
とはいえ、それはそれで緊張がさらに増す。
そう。いよいよ会うのである。
オーディントン国の国王ヴィクター・ホワイトウェイに。謎に包まれ、神秘的な存在とすら噂されている人に。
生贄として、捧げるのである。わたし自身を。
そして、奥の扉から執務室に入った。
緊張や不安で震えながら……。
執務室に一歩足を踏み込んだ瞬間、「生贄だと? バカバカしい。おれは、大昔の魔物かなにかか?」という怒鳴り声に耳が痛くなった。
その場に凍り付いていた。文字通り体が動かない。
顔を上げることさえ出来ない。
うつむいてその場に立っているしか出来ないでいる。
気配は感じる。
この執務室も他の多くの執務室と同じで、奥に執務机があるみたい。
国王は、執務机の近くに立っているみたい。