古城
「レディ、レディ」
呼ばれたような気がした。
ハッと目が覚めた。
座席の上に横になって眠ってしまっていた。
「レディ、到着しましたよ」
パーシーが窓から覗き込んで知らせてくれた。
「サエ、です。サエ・アンダーソンです」
先程、彼らのお茶目ないたずらのことで自分が名乗っていなかったことに気がついた。
「いい名ですね」
パーシーは、にんまり笑った。
馬車が停車した。
「敬礼っ!」
キリッとした号令がきこえたので窓からのぞいてみると、門の前に兵士たちが整列して敬礼している。
馬上、パーシーとチャーリーが返礼する。
(うわあ! カッコいい)
祖国の皇宮では、軍による閲兵式が何年かに一度行われていた。が、規模は小さく、お話しにならないくらいまとまりに欠けていた。
それに比べて、パーシーやチャーリーや他の迎えの騎馬兵たち、それから眼前の衛兵たちはどこか違っている。
感心と興奮をする中、馬車はまた静かに走り始めた。
「ここは、どこなのですか? あ、すみません。答えられない質問でしたね」
軍の施設に違いない。
だったら、機密とかあるはず。
好奇心というほどではないけれど、不安なこともあってつい尋ねてしまった。
「ここは、わがオーディントン国軍でもかなり規模の大きい駐屯地のひとつです。国境に近いので、他国から攻め入られた場合には、この駐屯地に駐屯している大隊がすみやかに対処することになります」
チャーリーが答えてくれた。
(大隊がすみやかに対処する……、ね)
さすがはオーディントン国の軍。強さに自信があるのが感じられる。
「オーディントン国の国王は、みずから軍を率います。陛下は、歴代の国王の中でも指折りの名将軍。ふだんから王都にいることはなく、ほとんどこの駐屯地か他の大規模な駐屯地で演習などの指揮をしているのです」
パーシーが自慢げに教えてくれた。
国王のことを尊敬し、慕っていることが感じられる。
「到着です」
パーシーの言葉と同時に、馬車が停車した。
窓から見えるのは、月光の下光り輝く古城だった。
パーシーが馬車の扉を開けてくれ、手を差し出してくれている。
その手を取ると、彼はエスコートしてくれた。
地に降り立つと、あらためて古城を見上げた。
(まるで書物に出てくるそのままの古城だわ)
古城は、月をバックに幻想的かつ優雅に浮かび上がっている。
いくつもの篝火が、古城をよりいっそう幻想的に見せているのかもしれない。
(肌寒い)
夜も遅く、気温が下がっている。
「寒いですよね。はやく中に入りましょう」
パーシーに導かれ、古城へと進む。
チャーリーが部下の兵士に乗っている馬を託しているのを背中でききながら、キョロキョロとしてしまう。
石橋を渡り、古城の前門をくぐる。
篝火がそこかしこに焚かれていて、歩哨が立っている。
彼らは、機敏に敬礼をする。
それにパーシーは敬礼を返し、わたしは頭を下げて通りすぎる。
重厚な扉を入るとそこは大きなエントランスになっている。そこを奥へと横切ると、石の床がずっと続く大廊下になっている。
パーシーにエスコートされ、チャーリーを従え、奥へと進む。