【Side】マクギリウス 2。
「お願いだ叔父さん。俺をアリーシアのボディーガードとしてつけてくれ。もちろん商会の仕事も手伝う。いや、きっと俺ほど彼女の意思通りの仕事をこなせる人材もいないと思う」
アリーシアがまだ十四の時。傾いたブラウド商会の立て直しのために一年前倒しでトランジッタ家に嫁ぐことが決まったその場で。
俺はマーカス叔父にそう懇願していた。
まだこんな幼いのにたった一人で見知らぬ場所に嫁ぐアリーシア。
本人は健気にも異論も言わずに承知している。
その姿があまりにも不憫に思えてどうしようもなくて。
俺はすべてをなげだしても彼女の役に立ちたい、そんな衝動に駆られていたのだ。
「そうかマクギリウス。しかし、良いのか?」
国王も代替わりし影の仕事ももう既に引退状態だった叔父。
すべての権限は今俺に託されている。
それを投げ捨てるわけにはいかないのだぞ?
暗にそう言っているのは理解した。
俺が動くということは王国の暗部をすべて引き連れて行くということ。それに等しいのだから、と。
それならそれでいい。
それだけの人材があればブラウド商会を立て直すのにも役に立つ。
私用で影を動かすことにはなるけれど、それくらいは兄も大目に見てくれるだろう。
国内の経済が混乱に陥らないためにも、今はブラウド商会を見捨てるわけにはいかない。
商会のおかげ、ブラウドのおかげで花開いた市場経済を、もう少しだけ安定維持したい。
ブラウドの弟子たちがもう少し力をつけ国が手を貸さなくともやっていけるようになるまでは。
あと数年は今のままで。今ブラウド商会に潰れて貰っては国家的な損害も大きいと思われていたのだから。
いや。そんな建前よりも。
本音はアリーシアにだけそんな重責を担わせるわけにはいかなかった、から。
俺がいかなければ叔父が直接手を貸していただろう、けれど。
それでも俺は。
アリーシアのそばに居たかった。
ただそれだけだった。
♢ ♢ ♢
アリーシアは天才的な働きをした。
そのひらめきは人の認知を超え先を見据え。
数多くの彼女の販売戦略は悉く成功をおさめた。
そして一度成功すればその先進的な方法を真似する商会も増えてゆき、国内の産業は活況を呈して行ったのだった。
たった三年で商会を立て直してみせた彼女。
そんな彼女をまさかラインハルトが追い出すことになるだなんて。
俺も、マーカス叔父も、そして兄王クラウディウスでさえ想像だにしていなかった。




