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マリアーナ。

「おかえりなさいお姉様」


 出迎えてくれたのは一つ年下の異母妹、マリアーナだった。

 満面の笑みで、幸せそうな雰囲気を振りまいている彼女。


「出迎えてくださってありがとう。マリアーナ」


 異母姉妹ということもあったし、何よりわたくしは幼い頃からお祖父様の教育を受けていたせいか、仲良く遊んだ記憶も少なくて。

 髪の色も瞳の色も、そして顔立ちも、黙っていれば双子の姉妹のように良く似ているわたくしたち。

 違いといえば、マリアーナは太陽のように明るい笑みが似合う子で、わたくしは逆にいつも暗い雰囲気でいたことだろうか?

 かわいいマリアーナのことを羨ましく思ったこともあった。

 彼女の笑顔は周囲にも伝染する。だからか、マリアーナの周囲はいつも明るい笑顔で溢れていた。


「ああ、でもよかったわ。お姉様、これで解放されたのね」


 え?


「お祖父様の命で渋々嫁いだのでしょう? 好きでもなかったのに。お姉様にはこれから本当に好きな方を見つけて幸せになってほしいわ」


「どう、して……」


 本気でそう思っているのだろう、マリアーナはこれっぽっちも悪気がない様子でそう言った。

 一体どこでそんな話を聞いたんだろう。


「え? 違うのです? お姉様は離婚をされて帰っていらっしゃったのよね?」


 ポカンと、どうしてって聞くわたくしに、そう聞き返すマリアーナ。


「そう、ね。正式な手続きはこれからだけれど、離婚をすることになって帰ってきたのですわ……」


「そうよね! だから、おめでとうございます、だわ! お姉様はちゃんと恋愛をするべきなのよ」


「ちょっと、待って。わたくしが嫌がっていただなんて、誰から聞いたのですか?」


「はい? 違うのです? お父様も、お母様も、ラインハルト様も、みんなそうおっしゃっていましたわ。この離婚はお姉様のためなのですって」


 マリアーナは真顔でそう言い、「さあお部屋の用意はできていますわ。まずはごゆっくり休んでくださいね。もう夕食の時間は過ぎてしまっていますけれど、お夜食を準備していますから」

 と笑顔で招き入れてくれた。

 もう三年経ったのか。と、そんな感慨めいたものにも浸りながらわたくしはメイドに案内されるまま部屋に向かう。

 昔わたくしが使っていた部屋は今はお兄様のご家族用、お子が生まれたらその子用になるのだと聞いていた。

 今回は急なこともあり客室をあてがわれた形。

 用意されていたお夜食をお部屋のリビングで頂き、フィリアの入れてたお茶を飲みやっとくつろいだところで。


「フィリア、ありがとう。あなたもお食事をいただいてくださいな。わたくしはもう大丈夫ですから」


 ずっと付き従ってくれたせいで疲れているだろうフィリアを労って。


「お嬢様。私は大丈夫です。この部屋は客室だけあって隣に侍従控えも備え付けられておりますし、簡単なキッチンもありますから私はしばらくそこで過ごしても良いようですから。お夜食も私の分も用意していただいたので、後でちゃんといただきますわ。それよりも……」


 彼女はわたくしのそばに跪くと、両手でわたくしの手をとって、じっとこちらを窺うようにして、言った。


「私はお嬢様が心配です。あんなこと、あんな嘘、エルグランデ家の皆様まで信じているだなんて」


 ああ。

 ダメ。


 愛しむような瞳でこちらを見上げるフィリアに。

 もう我慢ができなかった。


 ぽろ。ぽろ。


 ゆっくりと涙が溢れるようにほおを流れて落ちる。


「わたくし、何か悪いことをしたのでしょうか……。こんなふうにラインハルト様に嫌われるようなこと、してしまったのでしょうか……?」


 呟きは、多分ほとんど声になっていなくて。

 それでもフィリアはちゃんと聞き取ってくれたのだろう。


「そんなことないです。お嬢様はこの三年間、本当に頑張ってこられました。ブラウド商会が立ち直ったのもお嬢様のおかげだとマクギリウスも言っていましたよ。真摯にラインハルト様に尽くしてきたアリーシアお嬢様のことは、私ずっと見てきてわかっていますから」


「うう……フィリアぁ……」


「大丈夫です。何があっても私はアリーシアお嬢様の味方です」


「ありがとう……」


 泣き疲れたところでフィリアに促されるままに着替え、ベッドに入ったわたくし。

 そのまま夢も見ずに寝てしまった。

 悪夢を見なかっただけよかった。起きた時最初に思ったのはそれだった。


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