アウラの結界。
「アリーシア様、どうかブラウド商会に戻ってきてはもらえませんか? もう、限界なんです。どうか……」
すがるような瞳でこちらをみるトマス。
でも。
「それはラインハルト様がそうおっしゃってるのですか?」
以前、わたくしを呼び戻そうとして領地にまでやってきたラインハルト様。
あの時は有耶無耶のうちにあきらめてもらったけど。
「いえ、ラインハルト様はもうあなたさまの名前は出しておりません。今の言葉は私の独断でございます……」
「どういうことなのでしょう? 戻れと言われてもそう簡単に戻ることができるわけではありません。今のわたくしはもうトランジッタ家とは縁が切れておりますから」
それに。
ラインハルト様の下で働くというのは嫌。
二人目の妻になれと言われるのも嫌だけど、そう言うのも関係なしにただお仕事をしに戻ってこいと言われるのも嫌だ。
たとえラインハルト様や、それかお父様やお祖父様がそう願ったとしても、まっぴらだ。
一度切れてしまったわたくしの心の糸は、もう繋ぎ直すことなんてできない。
ブラウド商会で働いている人には申し訳ないっていう気持ちはあるけど、でもそれでも。
それに。
わたくしのことを思ってくれたマクギリウスと一緒に立ち上げたアリリウス商会。わたくしとマクギリウスの名前を合わせたこの新しい商会のお仕事が今は大切だから。
だから、帰れない。
そんな簡単に、戻ってもらえないかと言われても困る。
「あなた様は、ブラウド商会がどうなってもいいと、そうおっしゃるのですか!!」
え!?
急に激昂し、声を張り上げたトマス。
「そんなことは言ってないわ。ブラウド商会はブラウド商会でちゃんと頑張ってもらいたい、そう思ってるもの。ただ、わたくしにはもう戻ることはできないだけ。わたくしを追い出したのはラインハルト様ですもの」
「ラインハルト様は変わってしまわれた。もう、私共ではどうにもならないところまで来てしまっているのです! このままでは、このままでは、ブラウド商会は終わりです!!」
「え? どう言うことです? ブラウド商会が終わりだなんて、そんなこと」
「ああああ。セバスはあなたに何も言っていなかったのか……」
苦しそうに胸を掻きむしるトマス。かきむしった胸がはだけ、シャツが破れて胸元が顕になる。そこがなんだか赤く光っているような……。
もともと細身のトマスの体が少し膨らんだような気がして、嗚咽と共に歯を剥き出しにしてうめき出した。
「うぐぅあぁぁああ!!! あなたがそんな新しい商会を立ち上げるから! 大人しくブラウド商会に帰ってきてくれていればこんなことにはならなかったのに!!」
あ、だめだ。
このままじゃ。
持ってきていたお守り。
その中から一つ選んで手の中に握り込む。
「お願いアウラ! 皆を守って!!」
風のアウラの結界。そんな魔法陣を展開させた。




