避難所。
心臓が早鐘を打っている。
ダメなことをしてしまったっていう自覚もある。
マクギリウス、ごめん。
心配をかけちゃう、よね。ごめん。
そう呟きながらラウールさんの後を歩いていた。
そろそろ避難所?
そう思ったけど違う。
ここは……。
「ここは、ブラウド商会の下町店ですね……。どういうことでしょうか」
「フィリア。ごめん。わたくしが迂闊でした……」
「いえ、お嬢様。私がちゃんとお止めしていれば……」
目の前にあったのは来たことはそんなにないけれど間違いなくブラウド商会の店舗。
輸入品や雑貨を扱う『よろずや』だった。
下町にある店舗としては作りも結構しっかりしている赤レンガのお店。
丈夫だし、確かに避難所には最適な場所ではあるのだけど。
「どうされました? こちらの商会では親父の代から懇意にしていただいてまして、今回も下町の緊急避難所として店内奥の間を開放してくださったんですよ。さあ、どうぞ中へ」
もう、しょうがない。
確かにわたくしだって何か災害があればこんなふうにブラウド商会の店舗を避難所として開放しただろう。
従業員の安全だけでなく地域全体の安全を。
そんなスローガンも掲げていたはずだ。
地震や火事、そういった時にでも、このレンガづくりの建物は他の平屋の木造と比べても丈夫だし、安全だから、と言っていただろう。
だから、そう言う意味ではなんの不思議もない。
店長の権限でそこまでできるかはわからないけど、当時であればマクギリウスの号令でそうした地域貢献はしていたはずなのだから。
奥に通されたわたくしたち。
倉庫の手前のスペースに、避難してきた人たちが座る場所ができている。
その一角に座るよう促され、よっこらと腰掛ける。
商品の一部を解放したのだろうか、床にはマットレスが敷き詰めてあって座ってもお尻が痛くないようになっていた。
流石にお弁当まで無償ででるわけじゃないから、皆それぞれに持ってきた食べものでお昼にしている。
お茶は、お店の好意でタダで配っているみたい。
大きなやかんがあちらこちらに置いてあった。あれもお店の雑貨の一つだろう。
「で、何があったんですか?」
お茶を一杯いただいて、ちょっと息をついで。そう尋ねてみる。
ここのところはこんな避難が結構当たり前になっているのか、周りの人たちも思ったよりも和気藹々としている感じ。
あんまり悲壮感が漂ってるってわけじゃない。
「魔人、ですよ。あれが出たんです。もうここのところ何度も何度も。いい加減にしてほしいですよね。こんなんじゃ仕事になりゃしない」




