負けないから。
「絶対にダメだ。そんな危険なことさせられない!」
「どうして? そりゃぁ下町はあんまり治安はよくないかもしれないけど、ラウダ工房だったら前にも行ったことがあるもの。以前にもデザインのお話を直接詰めたこともあるし、ラウダさんは信頼のおける腕の良い職人さんだったわ」
「それはわかってる。俺だって何度も君の使いで工房にも顔を出しているし、彼の人柄とかもある程度把握しているつもりだ。でも、そうじゃないんだよ、今心配しているのは」
「ブラウド商会の横槍が入ることを心配してらっしゃるのよね?」
「まあ、そう言うことだ。わかってるならそれ以上は言わないが」
「それなら、わたくしは変装するしセバスにもついて行ってもらうから。ニーアさんにも護衛をお願いするわ」
「ダメだ」
「どうして!」
「とにかくダメだ。セバスにもニーアにも言い含めておく。絶対にアリーシアを出すなって」
「そんな!」
「泣いてもダメだぞ。なあわかってくれ。本当に危険なんだ。今は大人しくしていてくれ」
言い合いをしたまま背を向けるマクギリウス。
最近昼間はずっと外に出ている彼。夜だって帰りが遅くって、今夜は久々に一緒に食事ができたところだと言うのに。
に、しても。
心配のしすぎじゃないだろうか。
最初の頃こそわたくしの精神的な問題を重視して、新商会の代表がわたくしたちだと言うのを隠しているんだと思っていた。
ブラウド商会から、ううん、ラインハルト様や実家の家族から戻ってこいと、ブラウド商会でもう一度働けと、そう言われてわたくしの心がどうかなってしまうのを避けるため。そう思っていたのだ。
だけれど。
もう今のわたくしは、以前とは違う。
自分をちゃんと主張できるようになったって、そう思ってる。
あんな人たちに、もう負けない。
そんな自信も持てるようになったのだもの。
だから。大丈夫だよマクギリウス。
わたくしはもう負けないから。
翌日。
わたくしは一晩かけて考えた作戦を実行にうつす。
問題はニーアさん。彼女が一緒だと心強いけど、でも彼女にバレたらマクギリウスにまで筒抜けになる。それは避けなきゃ。
だから、ニーアさんにはまた別のお手紙を他の下町工房に送ってもらうてはずにし、お部屋を留守にしてもらった。
マクギリウスは早朝早くにお仕事に行ったし、あとはフィリア。
「お願い、フィリア。わたくし、どうしてもラウダ工房に行きたいの」
「ああでもお嬢様。マクギリウスさまからはお嬢様を絶対に外に出してはいけないって、そう仰せつかっていますから」
「だって、せっかくのチャンスだもの。わたくしが出向いて誠意を尽くすことで、ラウダ商会が力を貸してくれるかもしれないのだもの。行かない選択肢はないわ」
「では、ラウダ工房をこちらに呼んだらどうでしょう」
「だって、ラウダさん、基本的に貴族そうろうの人は嫌いだったもの。会ってなら話聞いても良いって言って下さってるのに、じゃぁこちらまで来るように、だなんて言えないわ」
「しょうがないですね。以前お訪ねした際は私もご一緒しましたから、道はよくわかっております。近くまでは辻馬車を使いましょう。それであればそこまで危険もないでしょうし」
「ありがとうフィリア。大好き!」




