魔族。
「魔族?」
「ああそうだ。冒険者の中から魔族と化してしまうものが現れた」
「そんなバカな。国内に魔族が紛れ込んでいたって言うのか?」
「いや。本物の魔族だったらそんな簡単に尻尾を掴ませるような真似はしないだろう。過去の天魔大戦以降、天と魔は互いに協定を結びこの地上には手を出さないことになっている」
「ならどうして」
「どこかの馬鹿が国内に魔國大黄粉を持ち込んだのだ。あの魔粉は少量であれば個々のマナを強化する。疲れをなくし体力を増強させ、そして一時的に魔力を上げる効果がある。しかし」
「中毒性が高い。確か禁止薬物に指定されていたはず」
「そうだ。常用することで魂までが魔に汚染され、動物が魔獣になる危険があるとも周知してあったはずなのだがな」
「人の場合は魔族になる、か。人の壁を越えてしまうのだね」
「ねえ。お父様。天魔大戦って、神話じゃないの? ただのおとぎ話だと思ってたわ」
「いや、エヴァンジェリン。過去のあの戦争は実際にあった歴史なんだよ。ここ、マギアスガルドの王侯貴族はみな多かれ少なかれその当事者、天神族の血を引いている。平民が魔法を使えず我ら貴族が魔法を使えるのも、我らがその血を絶やさず守ってきたからなのだ」
「ふーん。そうだったんだ」
「貴族がその血にこだわるのも全て、その血に流れる魔力のもと、それを維持するためでもある。まあその弊害も現れてはきているから、新しい血が必要なのだが」
「だからあたしのお母様は隣国キシュガルドの出身なの?」
「キシュガルドの王族もまた我らと同じ。しかし国内だけで血を維持するのも限界があるのだ」
お食事の間。マクギリウス様と国王陛下は難しいお話をはじめて。わたくしは知らない、聞いたこともなかったお話をされていた。
でも。そんな禁止魔粉だなんて。
「ならそれ、俺が調べようか? 一年前に投げ出してしまった償いだ。兄上、影の連中も満足に動かせてなかったんだろう?」
「ああ、悪い。あれらは優秀な影ではあるが、やはりその陣頭指揮をとるものは必要だった。私ではなかなか手に余る」
「兄上は自由が利かないからしょうがないさ。ずっと俺がやってきた役割だったしね」
え?
「ごめんね、アリーシア。俺はずっと王家の影のリーダーって言う役割を担ってきていたんだ。君が領地に引きこもったタイミングでそんな役割を兄上に投げてしまっていた。だからさ、少しその償いに今回の事件を調べなきゃならない。許してくれるかい?」
「ううん、ごめんなさいマクギリウス。わたくしの方こそそんな大事なお仕事しているなんて気がつかなくって。ほんとにごめんなさい」
「君が謝ることはないよ、俺は自分がやりたいから君のそばに居ただけだから。ただね、ちょっとだけ留守にすることがあるかもだけれど、それは承知して欲しいんだ」
「うん、大丈夫。わたくし、頑張るから」
「失礼します。なら一時的にわたくしがアリーシア様の警護に回りましょうか?」
背後からそう声がして。振り向くとそこにはニーナさん?
「うん、いいわ。ニーナを貸して上げる。下町はやっぱり色々危険があるものね。ニーナはおじさまの部下もしてたことがある、優秀な子なのよ」
「そうか。ニーナが手を貸してくれるなら安心だ。俺はまだブラウド商会から何かちゃちゃを入れられるんじゃないかって、それが心配だったし。よろしく頼むよ」
はぁ。なんか怒涛のように色んなお話が進んでいく。
あ、そっか、今思い出した!
「あ! じゃぁマクギリウスがわたくしの前に顔を出した最初の挨拶の時、『俺は影です。あなたの護衛も兼ねておそばに居ますから』って言ったの、あれって……」
「はは。嘘は言ってないよ。エルグランデ公爵家の影ではなくって、王家の影だけどね?」




