王弟。
勧められるまま応接ソファーに陛下と相対する形で座り。そして陛下とマクギリウスのたわいもない雑談が一区切りついたところで唐突に切り出されたそんな言葉。
「マクギリウス。そろそろ王宮に戻ってくる気はないか?」
陛下はじっとマクギリウスの顔を覗き込む。
って、帰ってこいって、もしかして……。でも、だって……。
「俺は今新しい商会アリリウスを立ち上げたばっかりで忙しいんです。それに、そちらにもう新居も構えています。離宮が留守のままだと困ると言うなら、私物は全て引き上げても構いませんよ」
「いや、そう言うことではなくてな。私もそろそろ後継者を決めねばならぬ時期に来てしまった。息子が生まれてくれていれば問題もなかったんだが」
「そうですね。兄上の後継者問題を解決するためと言って、オクタウィア母様は第二夫人の子であったアウグス兄様をフランドール公爵家に、バルディス兄様をスペリオル公爵家に婿養子という形で追い払いましたしね」
「そう言うな。母様は母様でいらぬ権力争いが起きぬよう、手を尽くしてくれただけなのだ」
「だけど結局今、アウグス兄様派とガイウス兄様派に別れて争っているって話も聞くけど」
「アウグスの息子はまだ六つになったばかりだぞ。家族から離し私の養子に迎えるなどできるわけはない。形だけそう決めたとしてその子が成人するまで待つという手もないではないが、それではフランドール公爵家の親類連中が表に出てきてしまいまた争いの種になる」
「まあ、そうだね。一つの公爵家が突出するのは避けたいね」
「かと言ってガイウスでは正直不安もある。あれは脳筋な上に純朴すぎる。性格的にトップではなく副がちょうどいいポジションなのだ」
「ひどいな。ガイウス兄さんは素直で真面目。堅物で一途。正直兄弟の中で一番性格がいいって思ってるよ? まあいい人すぎるのは国を治める者としては不安だろうし、母様が許さないだろうけどね。ガイウス兄様の母様アグリッピナ様をオクタウィア母様嫌ってらしたから」
「それだ。そこの問題もある。身体の弱いエミリオは論外。スキピオは……」
「スキピオ兄さんは俗世からは完全に抜け出してしまったかのように研究に没頭してるからね」
「だから、だ。私はお前しかいない、そう思っているんだよ」
「それが、俺にエヴァンジェリンを娶らせ継嗣にするって話になるのかい? だったらお断りだ。いくら兄上の頼みでもそれだけは聞けない」
「なんと! 一体どこからそんな話が!!」
ガタンとテーブルをゆらし立ち上がる陛下。
「違うの、かい?」
「当たり前だ! あの子はまだ十歳だぞ!」
「そう、か。兄上、先走ってすまなかった」
素直にそう頭を下げるマクギリウス。
でも。そっか。良かった。陛下に強制されたらどうしよう、そう思っていたから
……。
あれは、エヴァンジェリンさまのお気持ちだけ? だったら……。




