エンジの馬車。
王宮に赴くのに辻馬車じゃぁ流石にダメだろうと思って、しょうがないから領地から乗ってきたエルグランデ家の馬車を使うしかないかなぁと思ってたんだけど。
そんな心配は杞憂だった。
「アリーシア、いくよ」
そう声をかけてくれたマクギリウスについて外に出ると、そこにあったのは見知らぬ馬車。
エンジの塗りの、ちょっとシックで上品な外装。
ところどころが金で縁取ってある、そんな豪奢な馬車。
「この馬車は……」
「俺の持ち馬車。離宮の俺の住まいで管理させてたのを呼んだんだ」
こちらを見てそう微笑む彼。
貴族の馬車は艶のある漆黒に家紋が普通。
というかあまりそれ以外の色は少ない。
辻馬車は普通の黒。貴族も使うからか上品な漆塗りが多い。
一般の馬車は木目そうろうでニスが塗ってあるものか、せいぜい茶色の塗料で表面を保護した板で加工してあるものが主流だ。
朱塗りの馬車は王室御用達だって聞いてる。あまり街中で見ることもないけれど。
そんな朱よりもちょっと赤みがかかったエンジ色。
これは……。
「色は俺の好みかな。ほら、俺の瞳の色にも似てるだろ?」
そう言ってこちらを見るマクギリウスの優しい瞳。
確かに。
赤い瞳だと思っていたけど、そう言われてみればエンジっぽく見える。
「なかなか目立つからね、もう最近はずっと使ってやれなかった。でも、今日ならね」
はは。そう言って笑う彼。
そっか。やっぱり。
好きだ。この表情が、好き。
わたくしは、マクギリウスのこの無邪気に笑った顔が好き。
「あなたのその笑ったお顔、好きよ」
思わずそう、ぼそっとこぼして。
「俺も、そんな君の笑顔が大好きだよ。そうしてはにかみながらの笑みも、好きさ」
マクギリウスは優しい笑顔でそう言うと、わたくしをそっと抱きしめてくれた。
♢ ♢ ♢
大通りを王宮にまっすぐ進む。
エンジの馬車は目立つせいか、ほかの馬車が道を譲ってくれる気もする。通常であれば譲り合いをしながら動いたり止まったりする馬車がほとんど止まることなく王宮の大門をくぐり進んで。
馬車回しについたところでマクギリウスが先にさっと降り、わたくしに手を差し伸べてくれた。
「さあお嬢様。お手をどうぞ」
イタズラっぽく微笑む彼の手をそっととってわたくしも馬車を降りる。
真っ赤な、それこそエンジ色の絨毯が敷き詰められたそこ、王宮の廊下を進みながら。
わたくしはやっぱりこの手を離したくないな、なんて、そんなことばかり考えていた。
うん。マクギリウスが好きだ。だから、もう諦めたくはない。そう……。




