心がほぐれて。
「どうしてマクギリウスがここにいるの!!?」
「どうしてって、ひどいな。お嬢に会いたくてやっとこさここまで来たのにさ」
「だって……」
だって、マクギリウスを手放すだなんて思わなかったんだもの。
ラインハルト様にしても、マリアーナにしても、それに、お父様だって。
彼は優秀だ。
わたくしが離縁を言いつけられた時とは状況が違う。
マリアーナがトランジッタ家に嫁いだ事で、マクギリウスもそのままブラウド商会に留められるのかとそう思っていた。
ああだからラインハルト様は引き継ぎなんか必要ないと、そうおっしゃったのだな、と。
その時はそう納得してしまったものだったのに。
金色に逆だった髪は相変わらずで、尊大な態度もそのまま。自信家で迫力のある彼マクギリウス。
そんな彼が満面に笑みを浮かべ目の前にどんと立っている。
それがなんだか不思議で。
でもなんだかとても嬉しくて。
「わたくしも……、会いたかった……。でも、マクギリウスは帰ってこれないと思っていたの…」
「はん! 俺は俺の好きなようにするさ! まあ商会を捨ててくるのは気が引けたから一通り引き継ぎをしようとしたらちょっと時間がかかっちまったけどな」
「でも……」
マクギリウスはエルグランデ家の者だからそんな勝手お父様とかが許さないのじゃ……
「まあ、辞めるって啖呵切ったらラインハルトが驚愕してたけどな。生意気だだのなんだのほざきやがったから俺はお前に雇われていたわけじゃねえ! って、そう怒鳴ってそのまま一発殴って黙らせてきた」
え? そんなの……
「はは。心配しなくてもいいよ。お嬢には迷惑かけないから。それに、ここならやつらも手は出せないしな」
貴族を殴るだなんて、そんな事をして捕まったら何をされるかわからない。
それなのにケロッとしてるマクギリウス。
それが不思議だったけど、でもちょっと……
あんまりにもマクギリウスがおどけた調子で言うものだから、わたくしも思わずクスッと笑い声を漏らして。
「うん。お嬢は笑ってたらいいんだよ。お嬢の笑顔は誰よりもかわいいんだから」
そんなふうに言うマクギリウス。
それがとても嬉しくて。
凝り固まった心がほぐれていくような気がした。
結局、マクギリウスはそのままこの屋敷に住むことになった。
お祖父様がそれを許した? のだろうけど。
不思議なことに領地のお屋敷を守ってる執事のバトラよりもマクギリウスの方が立場が上のようにもみえる。
バトラはいつもマクギリウスを立てるし、様付けで呼んでいるから、まるでこのエルグランデ家の主人のようにも見えたりする時もある。
それは無いよね。そう思うけど、もしかして彼ってどこかの貴族の隠し子か御曹司かと見紛うくらいだ。
お祖父様もマクギリウスには自由にさせているみたい。
でもって、彼はいっつもわたくしのそばにいてくれたのだった。