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仕組まれた、茶番。

「皆さん、多くの祝福をありがとう。ここに皆さんに改めて披露させていただく! この度、私ラインハルト・トランジッタは妻であったアリーシアとは離婚し、ここにいるマリアーナ・エルグランデ公爵令嬢と婚約したことを!」


 え?


 なんとはなしに眺めていた人垣の一角から、そんな声が聞こえてきた。


「これはトランジッタ、エルグランデ両家合意の元の決定だ。私とアリーシアは離婚をすることになったが、その妹マリアーナとの婚姻により両家の協力関係は今までとなんら変わりなく続いていくこととなるので安心して欲しい」


 あ、あ……。


 言葉にならない声をあげ、思わず立ち上がっていた。


 人々は拍手をもってその声に応えていた。

 人垣の隙間から、ラインハルト様が見える。

 その隣には、ほおを染めて彼によりそうマリアーナの姿があった。


 涙がボロボロと溢れていく。

 堪えていたのに。我慢、しきれなかった。


 涙を流しながら棒立ちになってそんな場面を眺めていたわたくしに気がついたのか、兄様がそばに寄ってきて。


「アリーシア、アリーシア、こんなところでそんなふうに泣くのはおよし。周囲が驚いているよ」


 そうわたくしを隠すように抱きしめる。


「いやぁ! 兄様、兄様もご存じだったのですね! どうして、どうしてこんなことに!」


「暴れないでアリーシア。さあ控室に行こう。ここでは周りに迷惑になる」


 お兄様が目配せすると数人の黒服のボーイさんたちがわたくしの周りを取り囲み、

 泣いているわたくしをホールから連れ出そうとする。


「嫌、いや、いやー!」


 知らない男性に肩を掴まれたのがものすごく不快で。

 ラインハルト様とマリアーナが周囲に笑顔を振り撒いているのがとっても悲しくて。

 こっちを見てヒソヒソ話してるご婦人方も目に入ったけれど、そんなことに構っている精神的な余裕はわたくしには無かった。

 この場から強制的に排除されようとしていることも、わたくしなんかこの場にいてはいけないんだと思い知らされるようで悲しくなって。

 でもそれなら、なんでわたくしをここに呼んだのか。

 王国祭に出席するように言ったのはラインハルト様だ。

 こんな茶番を見せられて、わたくしが正気でいられると本気で思っていたんだろうか。

 泣き叫ぶわたくしの額に兄様の手が触れた。

 眠りの魔法?

 甘い香りがしたと思った後、唐突に意識が途切れた。


 ♢ ♢ ♢



 そう。

 始めから仕組まれた茶番、だった。

 わたくしなんか本当にどこにもいなくても良かったのだ。


 ラインハルト様が望んだのは、最初っからマリアーナだった。

 笑顔が可愛いマリアーナ。

 しかし、トランジッタ家の家業が傾き、ラインハルト様との婚姻を理由にエルグランデ家がトランジッタ家を助けるという段になった時。マリアーナは13歳で、婚姻にはまだ早い、そういわれる年齢だった。

 15で成人と見なされるこの貴族社会において、14歳であったわたくしでさえ早婚と呼ばれていたのに流石に13歳の娘を嫁に出すことに難色を示した父は、元々の予定通りお爺さまからの教育を受けていたわたくしがトランジッタ家に嫁ぐべきだと強弁したのだという。


 なんのことはない。

 わたくしはマリアーナの身代わり、だったのだ。


 去年の学園の卒業パーティーに在校生から誘われ顔を出したラインハルト様。

 そこで、彼は美しく可愛らしく育ったマリアーナを見つけ。

 気持ちが再燃したのだ、と。


 お父様からそんな経緯を聞かされたわたくし。

 何もかももう忘れてしまいたくて。


「領地に、お爺さまのところに行きたいと思います」


 そう言って王都を離れた。

 お父様は罪悪感があったのかわたくしの自由にしてくれて。フィリアと二人馬車に揺られ、領地のシャトルブルクに向かったのだ。

 もう、何もかもどうでも良かった。

 もう、何もしたく無かった。

 もう、消えてしまいたい。そう感じていた。

 もうこれ以上、あのラインハルト様とマリアーナの幸せそうな笑顔を見たくは無かったから。



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