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本当と嘘

作者: サーナベル

俺がイジメを覚えたのは、小学1年生の時だった。

丁度、目の前にか弱い小柄な男がいた。

俺はそいつに掃除で使った後のバケツの汚水を使えるのではないかと考えた。

どんなリアクションをするだろう。

泣くだろうか。先生にチクるだろうか。

面白そうだ。

俺は「バーナード、何してるの」という言葉を耳にしながら、バケツをそいつの頭の上から被せた。

案の定、そいつは俺を見て、「嘘だろ」って顔をし、抗議の言葉を探していた。

「バーナード君、酷いよ!!」

俺はそいつを足蹴して、思っていたことをハッキリ口に出した。

「お前、女かよ。気持ち悪いんだよ」

そいつは直ぐ様、先生の元に行った。

「バーナード・ブレンドン」とハゲ散らかした教師が静かに告げる。

「どうして、先生がお前を呼び出したか分かるか」

俺はへらへら笑っていた。

「カツラを売ってる店を教えて欲しいんだろ」

先生まで一瞬、「嘘だろ」って顔をする。

「20年前までならば、体罰だ。お前、自分がどんなに非情な人間か分かってないだろ」

俺はこんな調子で30分程、説教を食らった。寝ているが、起きているフリで何とか乗り越えた。

毎日、俺は女みたいなひょろひょろをイジメまくってとうとうそいつを登校拒否に追い込んだ。

俺は次のターゲットを探した。

出来るだけ女に近い野郎がいい。蹴ったり、殴ったりして興奮するのはそういうのだった。


俺は偏差値の低い高校でアントニオ・ダリルというチビでブサイクでデブの男に嫌がらせしまくっていた。

仲間に彼女のキャリー・デールと親友のドルー・アンチボルトとジョージ・バルフォアを引き連れていた。

ダリルは直ぐに泣いたし、直ぐに金を渡してくれた。

金を渡すと少し優しくなると気付いたらしく、ダリルは積極的に金を払った。

ダリルの教科書をバラバラにしてやったり、髪の毛をボサボサに切ってやったり俺達はやりたい放題だった。

俺はあまり、キャリーとSEXをしなかった。それよりダリルをどうイジめるか考える方が楽しかった。

今思うと、俺はドSのホモ野郎だったのかもしれない。認めたくないが、容赦なく叩きのめせる男の方が女相手より居心地良かった。女は何を考えているのか分からない。

俺の母は俺を捨てて、出て行った。俺が幼稚園児の時だ。

父は俺が女みたいなことをしたら、直ぐに殴った。「強くあれ」と度々口にした。

俺は父みたいにはなりたくなかった。

遺伝子は遺伝する。俺の女みたいな男へのアプローチは周りをドン引きさせるぐらい熱烈だった。最早、執念と言っても良かった。

強面で大柄の俺に楯突くのはチンピラやヤクザぐらいだった。

そして、俺は自分より強いヤツを相手にしない本能を持っており、いくらターゲットが女々しいからと言っても、組を後ろに付けたら、俺は大人しく引き下がった。

その点、自分を評価していた。いくら百獣の王でも怖い物があるのだ。それは死神だったり、天使だったり、神だったりした。

ダリルが俺の隣を歩こうとしてビクビクしている。

俺は面白がってダリルが通った瞬間、足を突き出した。

無様にダリルが転ぶ。

偏差値の低い高校のため、皆よくできた人間で、笑いの渦が巻き起こった。

俺は素知らぬフリで「大丈夫かよ」と笑いながら、手を差し伸べた。

ダリルが涙目で手を伸ばす。

俺は寸前で手を引っ込めた。

ダリルが前のめりになって、また転んだ。

俺は無性に嬉しくなって満面の笑みを湛えた。

「お前、バカじゃねえの」

俺の言葉にダリルが逃げるようにして、この場を去った。転んだ拍子に鼻血を出したらしく血が点々と落ちている。

あんなに気持ち悪いのに人間なのかと俺は感心してしまった。


冬休みの夜、キャリーの家で俺とキャリーとドルーとジョージは集まっていた。キャリーの両親は旅行中で貸し切り状態だった。

俺は、無性にムラムラして辺りを見渡した。

一般的な女の子の部屋だ。兎のぬいぐるみと髪留めと姿見と大きなピンクのベッドがある。勉強机は埃被っていた。

俺はドルーとジョージと一緒にキャリーを犯したいと思っていたが、キャリーの女性性でスッカリ萎えてしまった。

キャリーをダリルと重ねて見てみる。

それでも女性相手に手が出せなかった。

ダリルはどんな冬休みを送っているのだろう。


新学期を迎えて、俺達は2年生になった。

幸運なことにドルーもジョージもダリルもいる。キャリーだけ別クラスだった。

教師達は人間関係を観察し、クラスを決めると聞いたことがある。

ダリルは生け贄に捧げられたのだとしか思えなかった。

俺達はダリルをいびって楽しんだ。

「よお、また仲良くしような」

「逃げんなよ。逃げたら、お前の父ちゃん母ちゃんの命はないと思え」

俺は言った。

「皆、お前のこと心配して忠告してくれてんだぞ。お礼はどうした?」

ダリルが小声で何か言っている。

「はあ?何言ってるのか聴こえないのよ。吊るすぞ、コラ」

俺の脅しにダリルがヤケクソで大声を上げた。

「ありがとうございます!!!」

俺達は爆笑した。こんなに面白いことはない。

「良かったな。皆優しくて」

ダリルは何度も相槌を打っていた。壊れた玩具のようだ。

もし、壊れた玩具だとしても捨てるにはもったいない。まだまだボロボロにする余韻が残っているのだ。

ヤツがここから脱出することは許されない。俺達は仲良く遊びたいだけなのだ。純粋な好奇心ってヤツだ。それを無下に断っちゃいけないだろ。

俺は「ツラ貸せ」と言って胸ぐらを掴み、休みの分、溜まっていた力を込めて殴った。

ダリルが変な声を上げる。「ひえぇえ」とも「いえぇえ」とも聴こえる奇声に場は盛り上がった。

「俺もやるやる」とドルーがカンガルーのようにピョイっと跳ねて机を越え、ダリルに殴りかかった。

意外と素早くダリルが逃げる。

逃げ道に待ち構えていたジョージが「待ってました」と言わんばかりに拳を叩きつけた。

ジョージの拳はダリルの顔にのめり込み、鼻血が滴る。歯が1本抜け、鼻も元々変だったのが拍車をかけていた。おそらく鼻の骨が折れたのだろう。

ダリルはひたすら謝り始めた。

俺には何故なのか全く理解できないが、ヤツの頭の中では謝れば済むと思っているようなのだ。

「ごめんにゃしゃい、ごにぇんなしゃい」

しかも、国内語ではない。

「どこの国の言葉を使っているのかな!?」

俺はヤツの頭をボールのように蹴飛ばした。

ダリルはみっともなく全身を痙攣させ、ガクガクと震えている。

少し可哀想になったため、俺は凄んで見せるだけにした。

「お小遣い頂戴、お兄さん」

猫なで声で耳元で囁く。

ダリルは狂ったように財布を俺に投げ付け、奇声を上げつつ勢いよく逃げ出した。

俺はニタニタ笑いながら、昼飯を楽しみにすることにする。


ダリルが死んだのは今年の秋だった。

イジメがあった証拠を作るように決まりきった方法、学校の屋上から身を投げ出したのだ。

ダリルは俺のことを深く憎んでいたようで遺書には俺の死を願う言葉が延々と綴られていた。

学校は俺を庇わなかった。

俺はイジメの加害者として罵られ、ダリルの親族に呪われた。

ドルーもジョージも知らないフリを決め込んでいた。

俺はダリルの父親に裁判にかけられ、少年院行きが決定した。

俺の親父は頭がおかしくなって精神病院で入院することになった。

俺が失ったのは、何だろう。

人間を人間と思わない人間。母親に捨てられた男。

俺はムショでずっと何が本当で何が嘘か考えていた。

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