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4.マリス・アーシェリーは脅される

基本的に、従者は家柄を問われない実力主義だ。

持っている魔力が強ければ強いだけ、護衛としての素質があることになる。

大抵が幼い頃から従者としての教育を受けてきており、中でも必須なのは攻撃魔法。

確かアゼルも従者として火の魔法が使える筈だ。

まだ見たことはないが、ゲームで知っている。


従者は幼い頃から傍に置くのが一番良いとされるが、それは主に主人側の感情への配慮であるという。


ただ、私は別に必要とは思わない。

固有の魔法がまだ発現していなくとも、私には前世の記憶があるのだ。

だから自衛くらいなら何とかなる……のだがしかし、話せない以上、父がそれを知る筈もなく。



アゼルがリリーの従者として就任してから二日後。

私の元にも従者候補がやってきた。

双子だから、なるべく時期を合わせたのだろうか?

変な気の使い方をするのはやめて欲しい。


候補とは言っても、殆ど従者になるのは確定しているようなもの。

家長である父が直々に決めたのだから、私に拒否権はない。


「マリー、おいで」


「……はい」


名を呼ばれ、渋々扉を離れて父の方へ行く。

正直にいらないと言えたらどれだけ良かったか、なんて考えながら。足取りは重かった。


父の横に立つ、見慣れない人影が目に入る。

年の頃は今の私より三つくらい上だろうか。

さらさらの黒い髪に、ほっそりしたシルエット。

攻略対象ではない、ことは確かだ。

こんなキャラクターは、サブキャラにもいなかったはずだ。


私に気付いてこちらを向いた彼の眼差しが、一瞬果てしなく冷たいものに感じられて背筋が冷える。

アイスブルーの瞳が、微かに細められた。


「エルジェ・ラシュテッド。よろしく」


「っ……初めまして、マリス・アーシェリーと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


握手を交わした手が酷く冷たい。

引っ込めたくなる自分を抑えて挨拶を返せば、興味対象を見るような不躾な目で見下ろされた。

まだ私とそこまで変わらない筈なのに、彼にはどこか油断ならないと思わせる何かがあって。

よろしくと言われても、とてもよろしくできるような雰囲気ではない。


「あの、お父様……」

私は思わず、父に助けを求めた。


「彼はラシュテッド家の子息だ。魔法の才も十分にある。これからしっかりと、守ってもらいなさい」


助け船を出してくれることはなく、それどころか父の言い方には僅かな含みさえあった。


ラシュテッドはこの世界において、アーシェリーと同様に魔法の名門だ。

普通なら従者を付けられる側の立場の筈なのに、何故彼はここにいるのか。

従者というのは形ばかりで、裏では両家の間で話が進んでいるのかもしれない。

家格だの魔力だの釣り合いだの、本当に面倒な話。


私が考えている間にあっさりと契約が終わったのだろう。

父は彼から受け取った書類に判を押し、それを折り畳んだ。


「では私は仕事の続きに戻るよ。二人で話でもしてみるといい」


微笑まれたところで不安が増すだけだった。

この人と応接間に二人きりにされるなんて堪ったものではないが、仕事に向かう父を引き止めることはできなかった。

扉が閉まる音。


「…………」


「…………」


当然の沈黙だった。

それを気まずく思っているのは、もしかしなくても私だけかもしれないが。

それでも何か話題を探さなければと、私は口を開く。


「えっと……魔法の属性をお聞きしても?」


この場合の魔法と言うのは、従者なら確実に使えるだろう攻撃魔法のことを指す。

主人になっただろう今、私は真っ先にそれを把握しておかなければならない。


「氷だよ、怖がりのお嬢さん。

もう知ってるもんだと思ってたけど」


薄い笑みを浮かべ、彼は答える。

私が怯えていることを見透かしていたのか。


「お嬢さんと言われても。

私と貴方の年齢はそこまで離れてもいないでしょう。

それに父から話を聞いたのも今朝、つい今しがたですから」


「さて、どうかな」


値踏みするように見られ、余計に居心地が悪くなる。

それでつい、聞いてしまった。


「……ラシュテッドと言えば名門ですよね。

何故従者になられたのですか?」


確かに従者になれば生活は保障されるが、良家の出ならそうする必要はない。

また、家同士の思惑がどうであっても、本人が拒むなら従者にならずに済む。拒否権はあるのだ。

なのに、何故。わざわざ。


「あんたが好きになったから」


「……は?」


信じられない言葉を聞き、反射的に彼の方を見てしまう。


「はは、やっと目が合った。

なあマリス、俺と結婚しよっか。

せっかく従者になったんだし。

家同士は、どうせそのつもりだろうしさあ」


彼は笑っていない笑顔を向けてきた。

冷たい手に頬を包み込まれ、自然に身体が固くなる。

逃げ場が、ない。


「……お断りします、と言ったら」

「んー。そうだなあ」


数度瞬きをし、表情を消した後、


「殺すよ」



就任したばかりの私の従者は、はっきりとそう言った。

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