表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

3.マリス・アーシェリーは目撃する

決意の日の翌日。

私は一睡もできないまま目を覚ました。

目を瞑るとアゼルのバッドエンドが目蓋に浮かび、その度にリリーの悲しい顔を見なければならないからだ。

厳密にはそれは私の妹のリリーではなく、ゲーム本編のヒロインの顔かもしれない。

が、この世界が『フォーテット』のそれである以上、リリーがそうなる可能性も十分に有り得てしまうのだ。


「はあ……私はどうするのが一番良いのかしら」


一瞬、リリーに全部話してしまおうかとも考えた。

信じてもらえるとは思う。それだけの信頼はあると信じている。

しかし話してしまった場合、リリーの性格なら恋そのものを諦めてしまいかねないのだ。

私は長女として我が家と同じ良家から婿を取って家を繋ぐ必要があるが、リリーにはその義務はない。

せっかく結婚相手を好きに選べる立場なのだから、幸せになって欲しい。

ゲーム本編でも、少ないとは言え幸せに恋する姿を見ることはできたのだ。

もっとも、今回は一から百まで幸せになってもらいたいと、そう願っているのだが。


学院に入ると攻略対象との遭遇率も格段に上がるため、なるべく今のうちにアゼル以外で良い相手を見つけられれば……。

しかし、このまま屋敷にいては出会いも何もあったものではない。

そう思い、私はリリーを連れて近くの町へ出てみることにした。

いつもの通り、変装していけばバレない筈だし、そのくらいなら特に危険もない筈だ。


そう思って誘いに行こうと思った私だったが──。


「アゼル、お姉さまとはどう?うまく話せそう?」


「昨夜、すれ違って挨拶はしましたけど……正直まだ、何とも」


「そうよね。でも、仲良くなってもらえると嬉しいわ。だって、私の大切なお姉さまだもの……よいしょ、っと」


「リリエット様、その場所はあなたでは届かないと思っ……!」


「きゃっ!?……ご、ごめんなさい!」


「い、いえ!僕は大丈夫ですから!!」


書斎で見知らぬイベントが起きていた。

本を取ろうとした拍子に転んでしまったらしいリリーと、それを受け止めたらしいアゼル。

二人とも、顔を真っ赤にしている。

幸いリリーにもアゼルにも怪我はない、ようだが……。


直感的に思う。これは少しまずい。

書斎でのイベントなんて、過去回想でも描写はなかった。

ゲーム本編で描写されていないことでも起きる可能性があるなら、前世の知識もどれほど当てになるか分からない。

引き離したい気持ちを抑え、開け放たれていた扉を静かに閉めてノックする。


慌てて返事をして扉を開くリリー。

「お姉さま、こんにちは。お姉さまもご用ですか?」

その頬がまだ少し赤く染まっている。


これは、もしかしたら少しでなくまずいのかもしれない。

思い当たる節があるとすれば、ひとつだけ。

ゲームには登場しないヒロインの姉である私の存在。

これで、余計に迂闊には動けない。


「お父様に頼まれて、いくつかの本を探しに来たの。

今は仕事が忙しいみたいだから」


「でしたら私もお手伝いします」


「あの、僕もやります」


「……ありがとう」


その後は不安要素が頭から離れず、本探しにもあまり集中はできなかった。


とりあえずリリーがアゼルとフラグを立てられないように、しばらくは妹にくっついているしかない。

アゼルが来る前と同じように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ