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9.双子の星

 自分を変えよう。

 そう決意した翌日、私はさっそく心が折れそうになっていた。


「……退屈」


 今日もやることがない。

 私は部屋で一人、何もしないで椅子に座ってぼーっとしていた。

 退屈過ぎて今すぐ部屋を飛び出し、何か仕事はないかと聞きに行きたい気分だ。


「ダメダメ! それじゃ今までと変わらない!」


 殿下もおっしゃっていた。

 何もしないことも休み方の一つ、悪いことじゃない。

 私は心も身体も疲れているのだから、しっかり休まないとダメなんだ。

 今日は一日、この部屋で過ごそう。

 どうせならベッドでもう一度横になって……っていうのはやり過ぎなのだろうか?

 適切な休みと自堕落な生活って、どこが境界線なのかな?


「うーん……」


 こうも部屋が静かだと余計なことばかり考えてしまう。

 やっぱり寝てしまったほうがいいのかな?

 昨日もお昼寝して気分はスッキリしたし、夜は夜でしっかり眠れた。

 昼寝なんて怠惰な象徴だと思っていたけど、疲れを取るためには必要なことかもしれない。

 

「また庭園に……ってあそこで寝るのは危ないって注意されんだっけ」


 じゃあやっぱりここで――ん?

 今、なんとなく視線を感じたような気がする。

 扉のほうだ。

 私はすっと視線を向ける。

 かすかに扉が閉まる音が聞こえた。


「誰かい……ないよね?」


 扉の先は静かだった。

 誰かが訪ねてきた、というわけでもなさそうだ。

 少し扉が開いていて、風で閉まった?

 だったら別に気にしなくていいけど……。


「……」


 私は扉に背を向ける。

 考え事をするふりをして、窓を見つめる。

 窓ガラスに反射して、かすかに扉が見えている。


 あ、開いた。


 後ろを向いたらすぐに扉が少しだけ開いた。

 音も立てず、私に気付かれないように誰かが覗いているらしい。

 まさか不審者?

 と思ったけど、ここは王城の建物の中だ。

 廊下には騎士さんも警護で見回っているし、そうそう不審者なんて入り込めない。

 それに視線からは嫌な感じがしない。

 徐に後ろを振り向く。

 すると私が見るより先に扉が急いで閉まった。

 間違いなく誰かが覗いている。


「……よし」


 誰が見ているのか気になるし、ここは一つ手を打ってみよう。

 私は手元にある紙を折って、人の形に見える様にした。

 そこに付与を施す。

 続けて自分の服にも付与を。

 これで準備は完了した。

 私は一度扉のほうへ視線を向けて、閉まったことを確認してから行動する。


 背を向けたと同時に扉がかすかに開く。

 視線は一つ……二つ?

 綺麗でくりっとした目が四つ、扉の隙間から室内を見ている。

 ヒソヒソ声が聞こえる。


「き、気づかれた?」

「まだバレてないわよ」

「本当か? さっきから何度もこっちを確認してたよ?」

「大丈夫よ。だってほら、本を読んでいるわ」


 椅子に座り、本をのんびりと読む姿。

 それを見てホッとする少年と少女。

 しかし次の瞬間、彼らは驚愕する。


「「消えた⁉」」


 忽然として本を読んでいた後姿が消えてしまった。

 二人は目を離していない。

 しっかり逃がさないように見ていた。

 にも拘らず消えた。

 瞬きの刹那に、誰もいなくなった。

 慌てて二人は室内に入ってくる。

 一人は短髪の少年、もう一人は綺麗な長い金色の髪をした少女が室内をぐるっと見渡す。


「い、いなくなったぞ!」

「どこに行ったの? ちゃんと見てたのに!」


 直後、バタンと扉が閉まる。

 その音にびっくりして振り返った二人の前に、消えたはずの私が立っている。


「え!?」

「う、うそ!」


 驚く二人に、私は優しく微笑みながら声をかける。


「いらっしゃい。私に何かあったかな?」


 不審者、にしては可愛すぎる。

 十歳……いや、もう少し上だろうか。

 年齢はどちらも同じくらいで、まだ子供だった。

 危険な人たちではなさそうでほっとする。

 と同時に、疑問を抱く。

 どうして子供が王城にいるのだろう、と。

 なんとなく、どこかで見たことがあるような二人だった。


「ど、どうやって! さっきまでそこに座ってたのに!」

「もしかして魔法?」

「ちょっと違うよ。私は魔法使いじゃなくて、付与術師なの」

「「ふよじゅつし?」」

 

 二人そろって可愛らしく反応する。

 小さい子供にはあまり馴染みがない単語だろう。

 せっかくの機会だし、少し教えてあげよう。


「その椅子を見てごらん。人形があるでしょ?」

「え? あ、ホントだ」

「紙で折ってある」

「その人形に、短い時間だけ私に見える様に付与をかけたの。二人が見ていたのは、私じゃなくてその人形が作り出していた偽物なんだ。それから私自身は――」


 私は自分自身に手をかざす。

 淡い光が手の平から発せられる。


「『透過』」

「見えなくなった!」

「また消えちゃったわ!」

「こうやって姿を見えなくして隠れていたんだよ」


 透明になっても声は聞こえる。

 私は数秒で効果を解除して、二人の前に再び姿を見せる。

 二人とも驚きと感心からか口がぽかーんと開いていた。

 

「これが付与術。いろんな効果を物とか生き物に与えられるんだ。時間は限られているけどね」

「す、すごい……さすが兄ちゃんの」

「だ、ダメだよライ君! そんな簡単に認めちゃ!」

「――は! 危ないところだった。ありがとう、レナちゃん!」


 ライ君とレナちゃん?

 今のが二人の名前?

 それもどこかで聞いたような……。


「えっと、二人は……」

「お、お前が兄上の結婚相手のフィリスだな!」

「兄上?」

「私たちはまだ認めていないわよ!」


 唐突に思い出す。

 二人の姿がかすかに、あの人と重なる。

 そうか、この二人は……。


「ライオネス殿下と、レナリー姫?」


 殿下の弟と妹。

 この子たちは双子の兄妹だ。 

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