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38.建国記念

 建国記念日を祝う祭りは、毎年開催されている。

 王都全域を巻き込んだこの国で一番大きな催しだ。

 王族、貴族、一般の住民が一緒くたになって楽しみ、この国に生まれたことに感謝する。

 私は初参加になる。


「いきなり重大任務を貰っちゃったなぁ」


 私は一人、ぼそりと呟く。

 殿下から提案されたのは、私の付与術を使って祭りを盛り上げること。

 具体的には、祭りで使う装飾品に付与を施してほしいそうだ。

 以前、私はライ君とレナちゃんと仲良くなるために、実用的な付与ではなく、魅せるための付与を使った。

 その時のことを殿下は覚えていてくれたらしい。


 お前の付与なら、人々に驚きと感動を与えられるんじゃないか?


 殿下はそう言ってくれた。

 ただ、頼りにしているという意味だけじゃない。

 期待のこもった言葉をもらって、私は張り切っている。


「さぁ、さっそく始めましょう」


 自分に言い聞かせて作業に取り掛かる。

 作業用のスペースとして、騎士団が使っている倉庫と一室を借りた。

 建国記念日まで三週間弱。

 時間的には十分に余裕があるし、焦る必要はない。

 それでもすぐに始めたのは、単にわくわくしていたからだ。

 仕事ではない、魅せるための付与は楽しい。


「何を付与しようかな」


 祭りだし賑やかな明るいものがいいだろう。

 どうやったらみんなを楽しませることができるのか。

 考えるだけで気分が晴れやかだ。


 数日が経過した。

 私は今日も祭りのための付与を準備している。

 普段は武器や鎧など、物騒なものばかり並ぶ騎士団の倉庫に、祭りのための飾りがずらっと並べられていた。

 そこへ殿下がやってくる。


「忙しそうだな」

「殿下」

「少し様子を見に来た。どうだ? 順調か?」

「はい。今はどの付与を混ぜて使うか考えているところです」


 今回は実用性より派手さを重視している。

 効果も建国記念日さえ保てばいい。

 制限がないから、楽しませる幅は広く、いろいろなことが試せそうだ。


「楽しそうだな」

「楽しいです。誰かが戦うわけでも、傷つくわけでもない。楽しむためにできることですから」

「そうだな」


 殿下は微笑まし気に笑う。


「楽しみにしてるぞ」

「はい。ご期待に添える様に頑張ります」

「ああ、だが無理はするな。お前は集中しすぎるとのめりこんで、自分も見えなくなる癖がある。休む時はちゃんと休むんだ」

「はい。そうします」


 殿下は、また後で見に来ると言い残して去っていった。

 期待してくれる殿下のためにも頑張ろう。

 もちろん、心配をかけないように。


 この時の私は、殿下の忠告を聞いたつもりでいた。

 だけど気づいていなかった。

 すでに夢中になっていたんだ。

 楽しくて、ついつい張り切ってしまって。

 私は忘れていた。

 王都中で広まっている噂と、その元となる国の裏側を。


  ◇◇◇


 建国記念日まで残り一週間となった。

 倉庫には祭りの装飾が綺麗に並べられている。


「よし、これで最後だ」


 私の仕事は、今しがた終わった。

 最後の付与を終えたことで。

 そこに合わせる様に殿下がやってくる。


「フィリス」

「殿下、いらしていたんですね」

「ああ。終わったのか?」

「はい」

 

 ちょうど殿下に報告へ向かおうと思っていたところだった。

 殿下は装飾品に近づく。


「見た目じゃわからないな」

「付与効果の発揮には魔力を使いますから。当日は魔導具と連動させて使うことになります」

「魔力か。流せば今でも見れるのか?」

「はい。一応……」


 ふむふむと頷き、殿下は装飾品に触れる。


「じゃあ試してみるか」

「殿下、魔力を扱えるんですか?」

「まぁな。簡単な魔法くらいは使えるぞ。といっても護身程度だが」

「そうだったんですね」


 知らなかった。

 殿下が魔法を使えたなんて。

 魔法使いは希少だし、使えるだけですごいことだ。

 殿下にはまだ私が知らない隠れた才能が……。


 と、感心している時だった。

 違和感。

 付与を施したのは私だ。

 その効果を間違えるはずもなく、付与した本人の痕跡が残る。

 具体的には、付与術師の魔力が残る。

 

 あれ?

 

 殿下が触れている装飾品からは私の魔力を感じない。

 壁にかける照明?

 あんな装飾あったっけ?


「殿下、そのそうしょ――」

「なん――」


 違和感が危機感へと変わる。

 私は直感した。

 その装飾品には別の付与が施されていると。

 

「危ない!」


 咄嗟に手を伸ばし、殿下を引っ張る。

 直後、装飾品が破裂した。

 小さな爆発だ。

 装飾品が並んだ棚が焼け焦げて倒れる程度の。

 しかし人間が、生身で至近距離に受ければ相当の被害になる。

 

「ぐっ……」

「殿下……殿下!」


 私と一緒に床に倒れこむ殿下が苦しそうな声をあげる。

 額からは血を流し、手には火傷をしている。


「一体何事だ!」

「騎士団長さん! 殿下が!」

「これは一体……すぐに救護班を呼びましょう」

「お、お願いします」


 どうしよう。

 私が気づくのが遅れたから殿下が……。


 不安と後悔が胸いっぱいに広がる中、殿下は意識を失った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんと反王党派の連中はろくなことしないな… 彼女の作品に偽物を混ぜて立場を悪くする気か。
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