表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/40

37.動き出す者たち

 暗い部屋で明かりは蝋燭一つ。

 丸いテーブルを囲んで男たちが向かい合う。

 始まりはため息一つ。


「どうやら思っていた以上に心酔しているようだね」

「これはよくないのではないか? 彼女は民衆の信頼も獲得しつつある」

「このままでは王家の信頼はより一層強くなるだろうな。何か手を打たなくては」


 焦る男たちの中で唯一、冷静に笑う者がいた。

 彼らを束ね、導く者。

 シュフィーゲル・アイゼン公爵。


「そう悲観することでもない。我々に与しないというなら、相応の手段を取るまでだ」

「何か考えがあるのか?」

「もちろんだとも。皆もよく考えてみてくれ。彼女は確かに優れた力を持っている。しかし所詮はこの国の人間じゃない。外から来たよそ者だ」

「それはそうだが、今は王家の一員だ。過去などあまり関係は……」

「そうでもない。彼女が優れた力を持っているからこそ、利用する価値がある。重要なのは事実ではなく、人々がどう受け取るか。そういうことでしょう?」


 暗闇からもう一人、姿を見せる。

 それは本来、この国にいるはずのない人物。

 許可もなく、無断でいることは問題となるだろう。


「サレーリオ公爵」

「ああ、まったくその通りですよ。シュフィーゲル公爵」


 二人は視線で繋がる。

 両者の間には、利害の一致があった。

 

  ◇◇◇


「……」


 最近、聞こえてくる噂がある。

 

「聞きましたか? 殿下のお噂……」

「ええ、王都中で広まっているみたいね」

「本当なのかしら?」

「わからないわよ。けど、ずっと婚約を避けていた殿下が急に……なくはない話だと思ってしまうわね」

「だからって殿下がそんな」

「わかっているわ。私だって半信半疑よ。だから噂は広まるの」


 王城内でもその噂が密かにささやかれていた。


 レイン殿下は私を自らの道具とするために、隣国から奪い取った。

 

 という噂が。


「ありえませんわ!」

「そうだよ! 兄上がそんなひどいこと考えるわけない!」


 噂は当然、ライ君とレナちゃんの耳にも届いている。

 当然のごとく二人は怒っていた。

 大好きなお兄ちゃんを悪く言われたんだ。

 怒って当然だろう。

 私はというと……。


「殿下……」


 殿下のことが心配だった。 

 最近また忙しそうにしていて、お茶会以外では会うことが減っている。

 以前のお茶会から三日後。

 これからいつも通りに殿下とお茶会が開かれる。


「ねぇ姉上、兄上はそんなことしてないよね?」

「ええ」

「お兄様大丈夫でしょうか?」

「きっと大丈夫。殿下は強いお方だから」

 

 二人の質問に答える。

 そうして自分自身にも言い聞かせている。


  ◇◇◇


「――噂など気にするな」


 お茶会の時間になり、殿下と話をした。

 心配になって尋ねると、第一声がこれだった。

 拍子抜けするほどあっけなく、堂々とした態度で言い放った。


「所詮は噂だ。大方、俺のことが気に入らない奴らが適当に流したものだろう」

「シュフィーゲル公爵……でしょうか」

「どうだろうな。それには少々幼稚な手にも見えるが……あの男は計算高い。何かもっと、大きな企みでもあるのかもしれん」


 そう言いながら紅茶を飲む。

 私が用意したお菓子にも、あまり手を付けていない。

 口で気にするなと言いながら、殿下の心は揺さぶられているのかもしれない。


「用心すべきはこれからだ。噂は放っておいてもなくなるが、これが彼らの仕業だとして、この程度で終わるとは思えない」

「……何を、考えているのでしょうか」

「わからんな。普段は俺たちの政策に反対したり、資金援助をしなかったり、間接的な抵抗が多かった。だが今回は毛色が違うようにも見える」


 殿下は悩んでいた。

 噂をバラまいた真意が別にあるかもしれないと。

 私には難しくて考えも及ばない。

 私に考えられることは一つだけだった。


「どうにかして、噂を早くなくすことはできないのでしょうか」

「そんなに心配か?」

「……これでも殿下の妻ですから」

「ふっ、だが、完全なデマというわけでもない」

「――!」


 そうだ。

 忘れていた。

 私たちの関係はあくまでも……。


「俺たちは普通の夫婦ではない。利用しているといえば……確かにその通りだ」

「……」


 もしかすると、だから殿下も強く怒れないのだろうか。

 私を妻にしたことに、少なからず罪悪感を抱いているから。

 だとしても私は……。


「私は、殿下と結婚したことを後悔していません」

「フィリス?」

「どんな理由で、どんな経緯があろうと……この穏やかな時間があるのは、あの日殿下と出会い、殿下が私に手を差し伸べてくれたからです。あの日私は、自分の意志で妻になったんです」


 この選択を間違いだと思ったことは一度もない。

 だって、幸福だから。

 この国での、新しい家族と過ごす時間は。

 普通の夫婦とは違うかもしれない。

 それでもいいと、思っているくらいに幸福なんだ。


「……そうか」


 殿下は笑う。

 安堵したように。


「なら、手っ取り早く示せばいい。今度、建国記念日を祝した祭りが開かれる。そこで王族が街を回るパレードがあるんだ。そこに二人で出よう」

「お祭りですか。いいですね」

「この国一番の祭りだ。実はフィリスの力も借りたいと思っていたんだよ」

「私の?」

「ああ。お前の力で、祭りをもっと華やかにしてほしい」

 

ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。

現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!

お好きな★を入れてください。


よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

https://ncode.syosetu.com/n5028ig/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

5/10発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000



5/19発売です!
https://m.media-amazon.com/images/I/71BgcZzmU6L.jpg
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく拝見してます! [気になる点] 建国記念日が「建国危険日」になってます…
[気になる点] 建国危険日・・・ ドラゴンでも襲ってくるのだろうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ