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31.第一次防衛戦

 スエール滞在から五日後。

 ついにこの時がやってきた。


「団長! 北の方角から魔物の大群が迫ってきております!」

「来たか。数と種類は」

「想定された通りです」

「よし! 第一装備を準備し、各員配置につけ!」


 騎士団長の低く激しい声が響く。

 騎士たちは立ち上がり、防具を纏い、剣をとる。

 緊張の一瞬を、私は街を覆う壁の上から眺める。

 隣には殿下の姿もあった。


「屋敷にいてもよかったんだぞ? 壁の上も十分に危険な場所だ。魔物の中には遠距離攻撃をできるものや、飛べる個体もいる」

「わかっています。けど、ここで見届けたいんです」


 私が施した付与が、ちゃんと彼らを守ってくれるかどうか。

 もしも足りなければその場で付与を重ねよう。

 宮廷時代は外に目を向ける暇すらなかったけど、今は違う。

 私は私の仕事を最後まで見届ける。


「殿下こそよろしいのですか?」

「俺に安全な場所で吉報を待つなんてことができると思うか?」

「想像できませんね」

「よくわかってるじゃないか」


 現場の指揮は基本的に騎士団長がとる。

 殿下はそれを見届け、彼らの判断に誤りがあれば口出しもする。

 本来、王族が戦場にいることは稀だ。

 彼らは国の象徴でありトップに立つ者。

 そんな人間にもしものことがあったら、国の未来に関わるから。

 しかし逆に、国の長も命を張る場所にいることを示すことで、命をかけているのは自分だけじゃないと騎士たちに思わせることができる。

 殿下はそう語り、迫りくる魔物の大群を見据える。


「始まるぞ」

「はい」


 迫りくる魔物の群れ。

 彼らはどこへ向かい、何を求めているのか。

 人々の穏やかな日々を守るため、武器を手にした騎士たちが迎え撃つ。

 今、両雄が衝突する。

 

「総員、かかれ!」


 騎士たちが前進する。

 魔物の群れに剣を向け、斬り裂く。

 まるで全面戦争だ。

 私も初めて見る。

 これが……。


「戦い」

「そうだ。騎士たちは常に、こうして魔物と戦っている。命をかけて」


 ごくりと息を飲む。

 視界の隅から隅まで埋め尽くされた魔物の群れ。

 それらに拮抗する騎士たち。

 訓練を積んでいても彼らは人間だ。

 魔物よりも身体能力でははるかに劣っている。

 技術を磨き、経験を積むことで、肉体的なハンデを補っている。

 

「臆さず進め! 我らの武具には力が宿っている!」

「おおー!」


 騎士たちの士気が上昇する。

 隣から小さく笑みがこぼれる。


「殿下?」

「いや、去年よりも安心して見られると思ってな」

「そう、なんですか?」

「ああ。動きが大違いだぞ」


 味方にも大きな被害が出てしまったという去年の防衛戦。

 私が知らない激しい死闘を殿下は見ている。

 その殿下が言うのだから間違いない。

 去年と今年、大きな違いは一点。


「お前の付与が、騎士たちの背中を押しているんだ」

「私の……」

「不安は消えない。命をやり取りをしているんだ。恐怖が完全になくなることはない。だが……」


 殿下は続ける。

 力強く真剣な瞳で騎士たちを見下ろし。


「拭うことはできる。完全ではなくても、安心を与えることはできる。お前の力が彼らを支えているんだ」


 彼の言葉は心に響く。

 私が、私の力が彼らの士気をあげた。

 彼らの命を守ることができている。

 今までも、騎士団からの仕事は引き受けていた。

 宮廷時代も含めれば、何千、何万という武具に付与を施してきた。

 仕事だから、特に考えもせずに。

 でも、こうして現場を見て思う。

 私がやってきたことは、誰かの命を守っていたんだと。


「……殿下。少しだけ、自信がもてそうな気がします」

「遅いんだよ。気づくのが」

「そうかもしれません」


 もっと早くこの場所に来たかった。

 そうすれば私は……もっと責任とやりがいを持って仕事に取り組めただろう。

 あるいは忙しすぎた宮廷時代でも。


「逃げる魔物は追う必要はない! こちらに向かってくる魔物のみに専念しろ!」

「団長! 飛行が可能な魔物も確認されました!」

「よし、弓兵部隊を配置しろ! 一匹たりともスエールの上空を通らせるな!」


 彼らの弓には自動追尾を、矢の一本一本には貫通力増加を付与してある。

 これで大抵の魔物は一撃で沈められる。

 空を飛ぶ魔物は狙いが定まりにくい。

 自動追尾は必須だ。


「弓兵部隊! 放て!」


 壁に接近する魔物を、矢の雨が撃ち落とす。

 その光景はまさに圧巻だ。


「今のを防げば、これで……」

「残党を制圧しろ! 勝利はすぐそこだ!」


 さらに士気があがる。

 魔物の群れも大半が殲滅された。

 元々街に直進してくる魔物だけに絞っているため、左右を抜けた魔物たちは無視している。

 魔物たちも最初から、街を襲うために進行してきたのではない。

 彼らはただ、ここを通りたかっただけだ。


「どうして魔物はこの時期に行進してくるんでしょう」

「諸説あるな。一番有力なのは食料だ。これから冬に入る。食料がなくなれば魔物たちも生存できない。動物より魔物のほうが活動性が高く、その分必要になるエネルギーも膨大だ。食料が不足する前に移動したいのだろう」

「それは……ちょっと可哀そうですね」

「魔物に同情するか。お前は甘いな」


 だって彼らも、生きるために必死だということだから。

 少し同情する。


 様々な思いを抱き、第一陣の戦闘は終わる。

 私たちの勝利で。

 

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