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25.離れたくなかっただけ

「遠征への同行、ですか?」

「はい。今回は少々事情がありまして、フィリス様のお力をお貸しいただきたく」


 ある日、モーゲン大臣と騎士団長さんがそろって私の元を訪ねてきた。

 依頼の話ではあるみたいだけど、今回は事情が違うらしい。

 話し合いの席には殿下も同席している。

 私は殿下に視線を向ける。


「王都から西に向かったところに、スエールという大きな街がある。人口も王都とそん色ない大都市だ。そこが今回の遠征場所になる」

「そこに私も一緒に?」

「そういう話だったな」


 殿下はモーゲン大臣に視線を向け、続きを話すように諭す。

 大臣は軽く頷き、説明の続きを語る。


「毎年この時期になると、スエール周辺で魔物の大移動が起こるのです」

「魔物の大移動?」

「はい」


 大臣は深刻な顔で頷き答えた。

 スエールという都市の周囲は、森や川など広大な自然に囲まれている。

 必然、動物や魔物も多く生息しており、スエールには街を守るために巨大な壁が作られている。

 大概はその壁で守れるのだけど、大移動時は各方面から異なる種類の魔物が群れを成して押し寄せるそうだ。

 中には空を飛ぶ魔物もいる。 

 岩石を溶かす力をもった魔物には、石の壁なんて関係ない。

 王国は毎年この時期に、王都から騎士団を派遣して対処していた。


「今年も同様に騎士団を派遣する予定です。ですが毎年のことながら、それなりの被害が出てしまいます。魔物の数も多いのですが……」

「一番の問題は、その種類の多さにあります」


 騎士団長が口を開いた。

 

「一種類、二種類程度の魔物には、万全の準備をして臨むことで被害を出さずに討伐することが可能です。しかし異なる種類の魔物と同時に戦う場合はそうもいきません。全てに万全に備えるなど不可能なことです」

「臨機応変な対応が必要になる。そこでフィリス、お前の力が必要になる」


 殿下が最後のまとめのように言う。

 ここまで説明してもらったら、彼らの意図は十分にわかった。

 私の付与術なら戦況に合わせて効果を変えられる。

 話を聞く限り、大移動してくる魔物は毎年同じというわけでもないらしい。

 そこも対策が練りにくい要因の一つになっていた。


「フィリス様にお願いしたいのは、騎士たちへの支援です。実際に戦場で戦うのは騎士の役目ですので、フィリス様に危険は少ないでしょう」

「フィリス様の安全は我々騎士団が保証いたします。苦戦はしますが、今まで一度も守りを突破されたことはありませんので、壁の中にいていただければ安全です」

「彼らの力は俺が保証しておこう。よく国を守護してくれている頼りになる存在だ。俺から言えることはそれくらいだが、あとはフィリスが決めていい」

「私が、選ぶんですね」

「ああ、お前が選択すればいい、どうしたいか」


 少し、迷う。

 私の力を必要としてくれていることは理解できた。

 でも、どうしてかな。

 漠然とした不安が胸の奥にくすぶっている。

 いつもみたいに手放しで、はいわかりましたとは言えない何かが……。


「あーちなみに、スエールは俺の管轄だ。だから俺も行くことになる」

「殿下も行かれるのですか?」

「ああ、毎年そうだ。街の様子を見る視察も兼ねてな」

「そうなんですね」


 そうか。

 殿下もスエールには行くんだ。


「わかりました。私もスエールへ同行します」

「本当ですか!?」

「はい。私の力が少しでも皆さんのお役にたてるなら嬉しいです」

「ありがたい! 本当に」


 嬉しそうに頭を下げるモーゲン大臣。

 その隣の騎士団長も、無言でより深いお辞儀をしていた。

 渋っていた自分が情けない。

 そして何より、自分が贅沢なんだと改めて思った。

 殿下が一緒に行くと聞いてから、胸の奥にあったモヤモヤがすっと消えたんだ。

 それはつまり、私が感じていた不安の正体は……。


「じゃあ今年は、俺たち二人でスエールへ行くことになるな」

「はい。よろしくお願いします」

「こっちこそだ。たぶん俺より、お前が行くほうが望まれているだろうな」

「……そんなこと、ありませんよ」


 少なくとも私には。

 もし殿下が行かないという話なら、私はどうしただろう?

 行きたくないと断った?

 さすがに行くとは思うけど、不安を抱えたまま戦地へ赴くことになったはずだ。

 殿下の存在があるから、私は迷わず願いを聞こうと思えた。

 結局、私は殿下と離れたくなかったらしい。


  ◇◇◇


「行っちゃうんですか、お姉様!」

「兄上もずるい! 僕たちも行きたいよ!」


 遠征の話を二人にすると、案の定文句を言われてしまった。

 二人ならそういうと思っていた。

 ライ君は殿下の右袖にくっついて、レナちゃんは私の背中を引っ張る。


「ダメだって言ってるだろ? こいつら毎年これなんだ」

「行きたい!」

「行きたいです!」

「あははははっ……」


 二人は今日も元気いっぱいだ。

 

「俺たちは仕事で行くんだ。遊びに行くわけじゃない」

「姉上も?」

「そうだぞ。だから大人しくして待ってろ」

「うぅ……」


 我儘をいいつつも、最後はちゃんと言うことを聞く。

 二人ともお利口な子供だ。

 けど納得はしていないとビンビン伝わってくる。

 本当は一緒にいたいよね。

 私も、二人と遊べないのは寂しい。


「帰ってきたら、一緒にお菓子作りをしよう」

「本当!?」

「約束ですよ! お姉様」

「うん、約束するよ」


 帰還後の楽しみを残し、私はお仕事に向き合う。

本日ラストの更新です!


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