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【WEB版】偽装結婚のはずが愛されています ~天才付与術師は隣国で休暇中~【書籍・コミカライズ企画進行中】  作者: 日之影ソラ
第一章

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20/40

20.たとえ偽りでも

タイトル少し弄りました

「君はどう予想する? 自分がいなくなった宮廷の現状を」

「……」

「わからないかい? 簡単だと思うのだけど」


 私は沈黙を保つ。

 予想はできる。

 私が請け負っていた仕事が、そのまま誰かに移った。

 候補として考えられるのは魔導具師のレイネシアさんだ。

 付与術師の役割に一番近く、似た結果を残せるのは魔導具師だけ。

 加えて彼女は天才と呼ばれていた。

 突然浮いてしまった仕事を任せる相手として、これ以上の適任はいないだろう。

 だとしたら……。


 手が回っていない?


「レイネシアさんのためですか?」

「彼女のためじゃない。この提案は君のためだよ。見知らぬ異国で暮らすのは大変だろう。慣れた場所で、楽に暮らすほうがいいとは思わないか?」

「そんなこと、想像できません」

「安心してくれ。僕が必ず実現しよう。君は僕たちに必要な存在だったんだ。ぜひとも戻ってきてほしい。僕も、陛下も望んでいるよ」


 びくりと眉毛を反応させる。

 どうしてここで、陛下の名前が出てくるのか。

 心がこわばる。


「宮廷での話は陛下にも伝わっている。陛下は少々お怒りだよ」

「どうして……陛下が」

「決まってるじゃないか。君が仕事を残して去ってしまったからだよ。陛下にとっても予想外だったようだね。たった一人がいなくなっただけで、宮廷が回らなくなるなんて」

 

 やっぱり上手く回っていないんだ。

 けど、それを私のせいだというの?

 それはあまりに理不尽じゃない?


「今ならまだ間に合う。国に戻ろう。君だって、好きでもない相手の妻になるなんて、本心では望んでいないんじゃないか?」

「……」

 

 サレーリオ様の話は、半分は脅しのようなものだった。

 陛下の怒りが収まらなければ、もう二度と私はあの国へは戻れない。

 それだけじゃない。

 私が結婚した相手は、この国の王子だ。

 事が大きくなれば国際問題になるかもしれない。

 危険な未来が想像できてしまう。

 国の規模だけなら、イストニアの倍はあるだろう。

 もしも争いになったらこの国は……。


「これは君のためなんだよ」


 ただ、私は苛立っていた。

 私が望んでいること。

 あなたが何を知っているの?

 嘘ばかりだ。

 そうやってまた私を騙す気でいる。

 一度騙された後で、今さら信じられない。

 上手く言いくるめて、自分の思い通りにしてしまおう。

 そういう魂胆が見え透いている。

 今から思えば、彼ほどわかりやすい人もいない。

 考えが読めなかったのは、私が彼を信じてしまっていたからだ。

 好きでいてしまっていたからだ。

 今の私に、彼への思いはない。

 だから今なら、よくわかる。

 この薄っぺらい男の……考える全てが。


「……私は――」


 口を開く直前、扉が開く。

 ノックもなく、勢いよく走らせて。

 大きな音を立てながら。


「遅れてすまないな」


 彼が来る。

 この国の王子で、私の夫が。

 

「殿下!」

「レイン王子……」


 殿下が部屋に入ってくる。

 走ってきたのか、少し呼吸が荒い。

 サレーリオ様と殿下、二人が視線を合わせる。


「お呼びしたつもりはありませんが……?」

「呼ばれなければ来てはいけないのか? ここは俺の国、この城は俺の家、そして――」


 殿下は歩み寄る。

 駆け足で、私の元へ。

 その手は私の肩を掴む。


「彼女は俺の妻だ」

「――!」

「……」


 その言葉が……どこまで本心なのだろう。

 わからないまま、胸がうるさい。


「妻が男と二人きりで会ってる。そんな状況が俺には許せなかっただけだ」

「許可は得ています」

「いいや、彼女と二人で話す許可は出ていない。ここは俺の家だと言ったはずだ」

「私は客人ですよ?」

「そうだな。だが、話はすでに終わっていたはずだろう? 俺は確か、すぐに帰国すると聞いていたんだが……」


 殿下はギロっとサレーリオ様を睨む。

 どうやら先に殿下とは本来の目的で話をしていたみたいだ。

 その後に私と会うことを、殿下は知らなかった。

 私の眼から見て、殿下が苛立っているように見える。

 嘘をつかれたことに?

 それとも……。


「ここは王城だ。客人とはいえ、部外者が自由に出歩いていい場所ではない。それとも貴国ではそれが普通なのか?」

「……これは失礼しました。彼女とは個人的に交友があったもので」

「そうか。ならば今後は気を付けてもらう。彼女はもう、貴国の人間ではない。この国の……俺の妻、フィリス・イストニアだ。勝手に連れ出そうなどと……考えないほうがいい」


 殿下はニヤリと笑みを浮かべる。


「……聞いていたのですか」

「いいや、だが予想はつく。大方、彼女を連れ戻すために口説いていたのだろう? だが振られたな」

「まだ答えは聞いていませんよ」

「そうか。ならばこの場で聞こう」


 殿下は私と目を合わせる。

 いつにもなく真剣に。


「フィリスはどうしたい? 戻りたいか?」

「私は……」

「素直に言っていいぞ。国のことも、俺のことも考えるな。ただ、お前自身はどうしたい?」


 まるで私の悩みに気付いているように。

 そう言われたら、答えは一つだ。

 私は――


「戻りたいとは思いません」

「だろうな」


 殿下は笑う。

 初めて見せる、無邪気な笑顔で。


「というわけだ。お引き取り願おうか」

「……わかっているのですか? 陛下は彼女が逃げたことにお怒りです」

「逃げた? 違うな。フィリスとの結婚はそちらの国王も同意している。書面も残っている。仮に勘違いがあったとしても、後から言えたことか?」

「それは……一国の王子としての発言ですか?」

「当然だ。俺はイストニア王国第一王子レイン・イストニア。俺の発言は王家の、この国の意志に相違ない」


 ハッキリと、堂々と言い切る。

 彼は、イストニア王国は、私を手放す気はないと。

 そう言ってくれている。

 意味を理解して、胸が締め付けられそうになる。

 

「わかりました。今の発言、陛下にもお伝えします」

「そうしてもらおう」


 サレーリオ様は去っていく。

 今度こそ……いや、次に会うことがあったらなら、その時は私も堂々としてみせよう。

 王家の一員として。

 彼の……レイン殿下の妻として恥じないように。


「余計なお世話だったか?」

「いえ、ありがとうございます。おかげで……」


 スッキリした。

 言いたいこと、全部代わりに言って貰えた。

 私じゃ怖くて口にできないことも、殿下がちゃんと言葉にしてくれた。

 自分でもびっくりだ。

 代弁してもらったほうが心地いいなんて。


「殿下は……」

「ん? なんだ?」

「……いえ、なんでもありません」


 私のことを、本当はどう思っているのか。

 知りたいけど、聞かないことにした。

 聞くのが怖いっていうのもある。

 けど、どっちでもよかった。

 この関係が偽物でも、偽りの夫婦でも構わない。

 私は今が、この場所が好きだから。

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