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16.家族の温かさ

「改めて、ワシはこの国の王、バーゲン・イストニアだ」

「その妻のセルシアよ。夫の顔と髭が怖くてごめんなさいね。この人見た目は怖いけど、中身はとても臆病だから怖がらなくていいわ」

「お、臆病ではないぞ! ワシはこの国で一番勇敢な男だ!」

「どこがですか? 出先でも一人で寝れないと私に泣きついて――」

「その話はやめてくれ! 子供の前で恥ずかしいだろう!」


 急いで王妃様の発言を遮った陛下だったけど、ほとんど全部聞こえていたから手遅れだ。

 私だけではく、ライ君とレナちゃんの耳にも。


「父上一人で寝られないの?」

「私たちだって一人で寝れますよ!」

「子供みたい!」

「子供みたいですね!」


 双子の無邪気な口撃が放たれる。

 大人な陛下にこの言葉はとても効くだろう。

 しかも我が子に言われたのなら尚更。


「くっ……父としての威厳が……」

「もう諦めてください、父上」

「レイン……お前も他人事じゃないぞ? いずれこうなることも覚悟しておくんだぞ」

「なりませんよ俺は。とても参考になる反面教師が目の前にいますから」

「生意気だなぁ……ワシの息子の癖に」

「父上の息子だからですよ」


 陛下とレイン殿下、二人のやり取りを眺めながら思う。

 王妃様のおっしゃっていた意味がわかった。

 陛下は確かに、見た目こそ怖そうで威厳があるけど、こうして話しているところを見ている限り、どこにでもいる普通の……ちょっと気弱なお父さんみたいだ。

 それに王妃様も。


「あなた。そういう風にムキになるところが子供っぽいと言われるんですよ? もう少し大人らしく、堂々としてください。私まで恥ずかしくなります」

「す、すまん……」

「謝罪はいいので改善してくださいね? もう何度目ですか?」

「まことに申し訳ありません」


 どうやら夫婦の上下関係はハッキリしているらしい。

 国のトップは陛下だけど、夫婦としては王妃様のほうが上手のようだ。

 奥さんの尻に敷かれる夫と、子供たちの距離が近い父親の顔を併せ持つ。

 彼らの会話を耳にしていたら、ほどよく緊張もほぐれてきた。

 ふと、王妃様と視線が合う。


「緊張はほぐれたみたいね」

「は、はい。ありがとうございます」

「お礼を言われることじゃないわ。私たちは普段通りにしているだけよ」

「そうだぞ? 君も普段通りにしてくれたらいい。ワシらが見たいのもそういう君だからね」

「……はい」


 よかった、と、心の中でつぶやく。

 私が想像する王族は、もっと堅苦しくて話しているだけで息が詰まりそうになる存在だった。

 国のトップなんだ。

 それくらいの人物なのだろうと。

 だからこそ覚悟はしていた。

 そんな覚悟は必要なかったと、二人の優しい笑顔が教えてくれる。

 殿下が王族らしく見えないのもきっと、この二人の影響が大きいのだろう。

 緊張は完全にほぐれて消えた。


「フィリスさん、城での生活には慣れましたか?」

「はい」

「レインとは上手くやれているかい? こいつは自分勝手なところがあるからな。振り回されていないか心配だ」

「いえそんな、大変よくしていただいております」


 受け答えに嘘はない。

 王城での生活は戸惑いも多かったけど、殿下やライ君とレナちゃんのおかげで快適だ。

 レイン殿下とも、たぶん上手くやれていると思う。

 普通に話もするし、政略結婚で妻になった私のことを気遣ってもくれる。

 自分勝手な部分は、私を妻にしたときに感じていたけど、それも含めて悪い人じゃないと知っているから平気だ。


「しかし未だに信じられないな。ずっと結婚を嫌がっていたレインが自分から嫁を連れてくるなんて」

「そうね。どういう心境の変化があったのかしら?」


 二人の視線がレイン殿下に向けられる。

 殿下は優雅に紅茶を飲みながら、毅然とした態度で答える。


「それはもちろん、彼女との出会いに運命を感じたからですよ」

「運命? お前らしくもないセリフだな。本当は何か裏があるんじゃないか?」

「裏も表もありませんよ」

「だといいがな。フィリスさん」


 陛下が私の名前を呼び、語り掛ける。

 優しい口調で。


「こう言ってるが、君はどうなんだ? レインとの結婚をどう思っている?」

「どう……というのは」


 私たちの関係を疑われている。

 それはそうか。

 いきなり、初対面の相手を妻に迎えたんだ。

 不自然だと思われて当然だろう。

 ただ、どう思っているかという質問になら、偽ることなく返すことができる。


「私は、この国に来られてよかったと思っています」


 レイン殿下との結婚には意味がある。

 だけどそこに愛はない。

 それでも、彼と出会い導かれて訪れた国で、私はほしいものを手に入れた。

 休みも、仕事を選ぶ自由も、楽しい時間も、元気な弟と妹だってできた。

 客観的に今の自分を分析して、その答えを出すなら。


 私はとても幸せだ。


「……そうか。どうやら余計なお世話だったようだな」

「余計ではないわ。それが親の務めよ」

「そうだな。フィリスさん、改めてようこそ我が国へ。そして、ワシらの家族になってくれたこと、心から歓迎しよう」

「何か困ったことがあったら相談してね? いつでもいいわ」


 家族という言葉が私の心を震わせる。

 一人になった私は、家族を失った孤独を紛らわせようとした。

 仕事に明け暮れたのも一つだったと、今ならわかる。

 だからこそ、心から思う。


「はい」


 家族の温かさが感じられる。

 私はこの国にこられてよかったと。

 

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