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15.国王様と王妃様

「わーい!」

「待ちなさいよライ君!」


 私の部屋で双子が楽しそうに遊んでいる。

 もう見慣れた光景で、私も落ち着いてのんびり過ごせるようになった。

 心にも余裕ができている。


「陛下と王妃様って……どんな人なのかな」


 慣れたからこそ、気が緩む。

 二人がいることを忘れて、ふと言葉に考えが漏れてしまった。


「父上?」

「お母様?」


 遊んでいた二人がピタッと動きを止めて、私のことを見ている。

 ここでハッと気づき、誤魔化すように笑う。


「フィリスお姉様は、お父様とお母様に会ったことないのですか?」

「兄上のお嫁さんなのに?」

「えっと、挨拶をしたことはあるの。でもちゃんとお話しする機会は中々とれなくて。ちょうど今日のお昼から、お二人とお茶会をすることになっているの」

「「お茶会!」」


 相変わらず息ピッタリな二人。

 お茶会のことは殿下から聞いていなかったのかな?

 二人していい反応を見せる。

 そう、殿下から提案されたお茶会は今日のお昼に開催される。

 緊張しながら数日過ごし、あっという間にこの日が来てしまった。

 あれから殿下も忙しくて、あまり話す機会はなかった。

 おかげさまで、現在進行形で緊張している。

 まだお茶会は始まってもいないのに。

 それもあって声に漏れてしまったのだろう。


「兄上が言ってたお茶会って今日だったんだ!」

「私たちも参加していいんですか?」

「それは私にはわからなくて、レイン殿下に聞いてもらえる?」

「わかりました!」

「兄上ならいいって言ってくれるよ!」


 元気いっぱいな二人もお茶会に参加してくれたら、私の緊張も多少は和らぐかもしれない。

 ここ数日でさらに二人とも仲良くなれた気がしている。

 今は二人のことを愛称で呼んでいるし、心の距離も縮まったんじゃないだろうか。


「ライ君、レナちゃん、二人から見て陛下と王妃様はどんな方かな?」

「父上は髭!」

「ひ、ひげ!?」


 ライ君から予想の斜め上を行く返答が飛び出した。

 確かに記憶にある陛下の顔は、顎と鼻下に立派な髭が生えていたとは思うけど……。

 実の父親のことを聞かれて第一声が髭って。

 もっと性格的なことを聞きたかった。


「お母様は優しい人ですよ!」


 レナちゃんが教えてくれた。

 そう、そういうことが聞きたかったの。


「でも怒るととっても怖いんです……」


 それは聞きたくなかったかも……。

 本当に怖いのだろう。

 レナちゃんだけじゃなくてライ君も、思い出してシュンとしてしまった。

 王妃様の機嫌は損ねないように頑張らないと。


「陛下はどんな方?」

「髭です!」

「……髭なんだね」


 二人の子供から髭扱いされるって……ちょっと不憫に思ってしまった。

 それだけ子供に慕われやすいということ?

 前向きに考えるなら、陛下はユーモアがあって優しい人なのかもしれない。

 だとしたら有難い。

 レイン殿下も人当たりがよくて接しやすいし、ライ君とレナちゃんもいい子だ。

 彼らの両親なら、きっといい人たちなのだろう。

 そう自分に言い聞かせながら時間が過ぎるのを待つ。


 そして午後になる。

 昼食も終わり、お腹の中に満ちた満腹感も薄れた頃。

 いつも殿下と二人でお茶会をする場所に、今日は六人集まっている。

 私と殿下が隣り合わせに、その隣にライ君とレナちゃん。

 向かいに座っているのが……。


 イストニア王国現国王、バーゲン・イストニア

 レイン殿下の御父上。

 その隣に座る薄黄色の綺麗な髪の女性が、セルシア・イストニア王妃。

 陛下の妻女にして、レイン殿下の母。

 二人が並ぶと貫禄がある。

 特に陛下は……凛々しい髭と鋭く力強い眼光が光る。


「お疲れのところ来ていただいてありがとうございます。父上、母上」

「ああ、構わない」

「あなたは元気そうね。レイン」

「はい。どこも変わりはありませんので」


 殿下と二人が淡々と会話を進める。

 少しだけ空気が重い?

 いつも元気溌剌なライ君とレナちゃんも、今は静かにちょこんと席に座っている。


「それでは定刻になったので始めましょうか」

「待てレイン、一つ言わせてもらおう」


 陛下が口を開く。

 まるでこれから説教でも始まりそうな、そんな雰囲気だった。

 私はごくりと息を飲む。


「――硬いぞ」


 ……あれ?


「硬すぎるぞレイン。せっかくのお茶会だ。もっと気楽に話せばいいだろう」

「……だったらその真面目な顔と髭をどうにかしてください、あなた」

「髭は無理だ。なんともならん」

「ならせめてもう少しニコニコできないの? 見てください。せっかく来てくれたのにフィリスさんが緊張してしまっているわよ」


 王妃様は優しくおっとりした口調で陛下に進言する。

 陛下はハッと気づいたようにこちらを向いて、申し訳なさそうな顔をする。


「おっとすまない。ついワシも緊張してしまってな。なにせ息子の嫁と話すなど初めてのことだ。父親として威厳を示そうと張り切ってみたのだが……逆効果だったか?」

「父上顔が怖い!」

「お父様はお髭がまた増えてますわ!」

「くっ……髭は剃っても剃ってもすぐ生えてくるんだ」


 静かだったライ君とレナちゃんも話し始める。

 緊張と静けさで重たい空気だったテラスが、一気に明るく楽しい空間になる。

 まだ私一人だけ状況の変化についていけない。

 堅苦しかった最初の雰囲気との落差が、私を困惑させている。

 そんな私に殿下が言う。


「いつも通りでいい。二人とも、お前を歓迎しているから」


 その言葉に背中を押される。

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