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14.二人きりのお茶会

 とある日の昼下がり。

 陽気な太陽が燦燦と輝く青空に、雲は一つもない。

 木陰にいないと外は少し熱い。

 王城の庭園には白いテラスがあった。

 私は一人、紅茶とお菓子が用意されたテーブルの前に座っている。

 そこへ彼がやってくる。


「すまないな、遅れた」

「いえ、私も先ほど来たばかりですから」

「嘘が下手だな。城内から見えていたぞ? ずいぶん待たせたな」


 そう言って殿下は私の向かい側の席へ座る。

 お互いに顔を見合い、一呼吸置いてから殿下が切り出す。


「それじゃあ始めるとするか」

「はい。本日のお茶会を」


 三日に一度、私と殿下の二人だけでお茶会を開く。

 場所はこのテラス。

 一時間ほどの短めな時間だけど、ゆったりとした時間を過ごしながら談笑する。


「お仕事はお忙しいんですか?」

「まぁな。今日中に終わらせないといけない仕事が溜まってるよ」

「それは……大丈夫なんですか? お茶会なんてしていても」

「なんとかはなる。いつものことだ」


 話しながら紅茶をずずっと飲み干す。

 忙しく余裕がない時は、誰だってせわしなくなる。

 殿下も紅茶を飲むことすら急いでいるように見えた。

 最近は特に忙しそうで、私の部屋に訪れる機会も減っている。

 代わりにライオネス殿下とレナリー姫は毎日遊びに来てくれるから、寂しさとかは感じないけど。


「お忙しいなら無理にお茶会を開かなくても」

「そういうわけにはいかない。これも、この国の習わしみたいなものだからな」


 イストニア王国には昔から、夫婦や家族の時間を大切にする習慣がある。

 先祖代々受け継がれた考え方のようなもので、子孫繁栄を願う意味も籠っている。

 そのおかげなのか、年々イストニア王国の人口は増えているそうだ。

 

「これから先も残したい考え方として、俺たち王族が率先して示す必要がある」

「だから定期的にこうしてお茶会を」

「ああ」


 どれだけ忙しくとも、余裕がなくても、必ず夫婦の時間を作る。

 そのためのお茶会だった。

 私は素敵な習わしだと思って感心している。

 けど、忙しくて大変な殿下にとっては、あまり有難くはなさそうだった。


「ここだけの話、俺は正直……この風習はなくてもいいと思っている」

「忙しい方にとっては窮屈ですよね」

「それもあるが、一番の理由はそこじゃない。風習……というより同調圧力っていうのかな? それが正しいと決めつける必要はないだろ? 夫婦の時間を大切にしたいなら、二人で考えてそうすればいい。世の中にはいろんな人間がいる」


 殿下が言いたいことがなんとなくわかった。

 周りに誘導され、そうするべきだと決めつけられ夫婦の時間を作ること。

 言い換えれば、お互いに嫌々でも無理やりそうしなければならい。

 夫婦とは、家族とは……。

 そんな風に無理やり合わせなければ保てない間柄なのだろうか。

 だとしたら所詮、その程度の繋がりでしかないのだと。


「他人には他人の関わり方が、時間の使い方がある。無理に合わせる必要なんてない、と思うんだがな」

「確かにそうですね。私も……無理をしてまで合わせてほしいとは思いません」


 私自身が忙しい日々を送っていたからだろう。

 殿下の気持ちはよくわかる。

 目の前のことで手いっぱいなのに、横からあれこれと指示されたり。

 急な呼び出しを受けたりすると、なんで今なんだと疑問を抱く。

 きっと似たような理由なんだ。

 せっかくの機会も楽しめず、苛立ってしまうのは勿体ない。


「もっとも、今の話を国民に聞かせたら、間違いなく非難の嵐だろうが」

「そうでしょうか? 賛同してくれる人もいると思います」

「少数だろうな。少なくともこの国では、さっき話した通りの考え方が普通なんだ。常識を覆すには、それだけの根拠と長い時間がいる。今はこうして、狭い世界で語ることが精いっぱいだ」

「悪い風習じゃないですから、ね」

「そうだな。綺麗な考え方だとは思っているよ」


 夫婦や家族の時間を大切にすること。

 それそのものは美しく、見習うべきことだと自覚している。

 だからこそ、変えることは難しいのだろう。


「そうだ。話は変わるんだが、今度父上と母上も一緒に茶会へ誘ってもいいか?」

「え……?」


 本当に唐突な話題変換、しかもその内容に動揺する。

 

「今さらになるんだが、ちゃんと話す機会もなかっただろう? 父上たちも忙しくてそれどころではなかったんだが、そろそろ一度話す場を設けたいと思っているんだ」

「そ、そうですね……」


 殿下の御父上、この国で一番偉い人と、その奥さん。

 結婚の際に顔を合わせ、軽く挨拶は済ませてある。

 逆に言えばその程度で、お互いに時間をかけてゆっくり話す機会は一度もない。

 王城でも二人の姿を見かけないのは、ちょうど王都の外で仕事があったからだという。

 殿下の話によると、ちょうど三日後に戻られるそうだ。

 そのタイミングで、本当に今さらだけど顔合わせをしたいと殿下は提案する。


「構わないだろ?」

「は、はい! 頑張ります」

「別に頑張らなくても、普通に話せばいい」

「そ、そういわれても……」


 相手はこの国の王様だから、緊張しないほうが無理だと思う。

 殿下は軽い感じで予定を組む。

 私は上手く話せるだろうか。

 今から少し不安だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうだろう? 働き者の2人だからこういう習慣でもないとずっとすれ違いそう 逆にこの習慣がまもれないほど忙しいなら働き方改革しなさいよってご先祖様がいってるのかもね 上の仕事は仕事量に応じて雇…
[一言] 楽しくサクサク読めますね!!天才、無自覚、天然キャラ大好きです( *´艸`*)ウフッ レインとフィリスが本物の夫婦になっていく過程が楽しみ(=^・^=) 双子のライオネスとレナリー・・カワ(…
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