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13.付与術の見学会

「次の遠征では火山に向かいます。人数は前回より少し多いです」

「火山ですか。それなら熱耐性は必須ですね。それから乾燥と、脱水への対策も必要でしょう」

「さすがよくわかっていらっしゃる」

「宮廷でも同じ仕事をしていましたので」


 褒められるのは素直に嬉しい。

 騎士団長さんは私より年上で、お父さんくらいの年齢だろうか。

 顔や体格は全然違うけど、少しだけ雰囲気が似ている。

 話してみると安心できる。


「必要な付与はこちらに記載してあります。上から順に必要度の高いものを並べてありますので、可能なだけつけていただければ」

「拝見いたします」


 騎士団長から紙を手渡される。

 今回の目標は、火山帯地に生息しているサラマンドラの討伐らしい。

 サラマンドラは火を吐くオオトカゲの魔物だ。

 火山を含む気温の高い場所に生息していて、性格も極めて攻撃的で危険な魔物の一種。

 生息区域から離れることはあまりなく、近づかなければ安全ともされている。

 紙には最近になって、サラマンドラの個体数が増え、食料を求めて火山を降りてくることが多くなったと書かれていた。


「火山の下には街がありますので、このまま放置すれば危険なのですよ。幸いまだ被害は確認されていませんが、時間の問題でしょう」


 モーゲン大臣が軽く説明を補足してくれた。

 これ以上サラマンドラの個体数が増える前に討伐する。

 出発は今から一週間後。

 必然的に、納期も一週間後になる。


「前回より短く申し訳ありませんが……」


 私はさらっと必要な付与効果一覧に目を通す。

 必須のものは太字で、その他ほしいものは上から順番に書かれている。

 効果は全部で九つ。

 武器に必要な付与が二種類と、鎧全体に必要なものが一つ。


「大丈夫です。これなら二日もあれば終わります」

「二日? 本当ですか?」

「はい。ただ一点、この数の付与だと鎧と武器だけでは一つ足りません。腕輪か何か、なんでもいいので邪魔にならない装飾品を用意してもらえませんか?」

「それくらいは全然。いや二度聞きますが本当ですか? この付与の数は前回より多いのですが……」


 心配そうに私を見るモーゲン大臣。

 私はニコリと微笑み応える。


「簡単な付与ばかりなので問題ありません」

「おお、なんと心強い。殿下、まことにどのようにして彼女を口説き落としたのです?」

「ははっ、それは内緒だ」


 利害の一致で結婚しました。

 なんて本当のことはさすがに言えないよね。

 笑う殿下に合わせて、私も愛想笑いをする。


「フィリス様、一つお伺いしたいのですがよろしいですか?」

「はい。なんでしょう?」


 質問してきたのは騎士団長さんだった。


「先ほど足りないとおっしゃいましたが、まさか候補に出したすべての付与をしていただけるのですか?」

「はい。もちろんそのつもりですが……いけませんでしたか?」

「いえ、まさかすべてやっていただけるとは思わず。ただの希望だったのですが……」


 騎士団長も意外だったらしい。

 私からすれば九つくらい、宮廷時代によく引き受けていたのだけど。


「フィリス」

「なんですか? 殿下」

「無理をするつもりじゃ、ないよな?」

「はい。このくらいなら平気です。それに、またお休みを頂けるんですよね?」

「ああ、もちろんだ。あいつらとも遊んでやってほしい」

「はい」


 しっかり休む時間がもらえるなら、多少の忙しさは関係ない。

 私にとって仕事は生きることに等しい。

 当り前のように熟せてこそ一人前。

 そういう環境にいた。


「本当に頼もしい方ですな。フィリス様、もしよろしければ今から少し付与術を見せていただけませんか?」

「今からですか?」

「はい。フィリス様の腕前をぜひ見てみたいと思いまして」

「私も可能なら見させていただけませんか?」


 二人からの懇願。

 私はちらっと殿下に視線を向ける。

 彼の視線は、お前が決めろと言っているようだった。


「わかりました」


 減るものじゃない。

 依頼者が仕事を見たいというのも自然なことだ。

 私は快く了承して、場所を移す。


 向かったのは騎士団の武具が保管されている倉庫。

 鎧や剣が保管されている。

 今回は見せるだけだから、用意したのは鎧一つ。


「今からこの鎧に三つの効果を付与します」

「よろしくお願いします」

「俺も初めて見るな。付与術は」


 殿下もついてきている。

 これは失敗できない。

 もっとも、宮廷に入ってから今日まで、一度も失敗はない。


「始めます」


 鎧に右手をかざす。

 テーブルに魔法陣が展開された。

 魔法陣は下から上へ。

 鎧の形を把握するように移動して、消える。


「終わりました」

「え、今の一瞬で?」

「はい。三つとも付与できています。見てみますか?」


 半信半疑な彼らは、専用の道具を使って効果を確認する。

 しっかりと三つの効果が表示されているだろう。

 そのことに再び驚き、私のことを見る。


「なんという手際……まさか三つの付与を一度で、しかも一瞬で終わらせるなんて」

「これくらいは簡単です。付与効果も八種類まで、対象は大きさにもよりますけど、二十個前後なら同時に付与できます」

「「……」」

 

 モーゲン大臣と騎士団長は無言。


「はっはっはっ」


 殿下だけが笑っていた。


「えっと……」

「凄すぎて言葉もないみたいだな」

「そ、そうなんですか?」


 二人して頷く。

 私にとっては普通の技術で、付与術の常識からも外れていない……はずなんだけど。

  

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