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10.釣り合っていますか?

 第一王子レイン・イストニア。

 彼には年の離れた弟と妹がいる。

 年齢は十二歳。

 双子の兄がライオネス、妹がレナリー。

 結婚式の顔合わせで、殿下と一緒にいる姿を見ていた。

 慌ただしくて話をする機会はなかったけど、この二人がそうで間違いない。

 まだ幼いけど、第二王子と第一王女。

 王族には違いない。

 正体を知った私は慌てて畏まった態度に切り替えようとした。

 ふと、殿下に言われたことを思い出す。


 お前はもう俺の妻、王族の一員だ。

 堂々としていればいい。


 そう、私も王族の一員になった。

 レイン殿下の妻として、この二人の姉になる者として、しっかりと威厳をもって接しよう。

 変に畏まる必要はないんだ。


「初めまして。ライオネス殿下、レナリー姫」


 ましてや相手は子供なのだから。

 私は年上のお姉さんらしく接すればいい。

 もちろん、最低限の礼儀はもって。


「こうして話すのは初めてですね」

「そうだな!」

「私に会いに来てくれたんですか?」

「そうよ! お兄様の奥さんにふさわしい人か見定めに来たのよ!」


 えっへんという効果音でも聞こえそうだ。

 二人して腰に手を当てて胸を張る。

 あまりに動きがぴったりすぎて、微笑ましさについつい気が緩む。

 一人っ子だった私は、少しだけ姉弟というものに憧れていた。

 レイン殿下と結婚したことで、私は彼の家族になった。

 必然、この二人も私の家族……つまり、私にとっても弟と妹ということになる。


「結婚してよかったかも」

「な、なにニヤニヤしてるんだ!」


 おっといけない。

 ついつい微笑ましさで口元が緩んだ。


「僕たちは認めてないからな! お前が兄上のお嫁さんなんて!」

「そうよ! お兄様をゆうわくしたんでしょ!」

「お嫁さん……ゆうわく」


 威勢よく言っているけど、聞こえる単語はいちいち可愛らしい。

 私のことを認めていないみたいだけど、あまり悲しい気持ちにはならない。

 なんとなくだけど、この子たちとは打ち解けられる気がしていた。

 仲良くなるために私のほうから歩み寄ってみよう。


「二人はレイン殿下のこと、好き?」

「あ、当たり前だろ!」

「私たちのお兄様よ!」

「そう。だから戸惑っているんだね? 突然大好きなお兄さんが結婚して」


 大切な人を奪われてしまった。

 そう感じているのかもしれない。

 二人の全身から感じられるレイン殿下への好意が教えてくれる。

 

「じゃあ、どうすれば認めてもらえるのかな?」

「そ、そうだな! お前が兄上に相応しい相手だってところをみせてみろー!」

「相応しいこと……か」

「お兄様は凄い人なんです! その奥さんもすごくないといけないのよ!」


 私と殿下が釣り合えているか。

 夫と妻として、それを証明して見せろと言ってきた。

 理由は相変わらず可愛らしいというか、理屈は通っていないけど。

 

「凄いところか……」


 私が他人に自慢できることと言ったら一つしかない。

 

「なんでもいいの?」

「い、いいぞ!」

「じゃあ、私は付与術師だから」


 二人に付与術のことを教えてみよう。

 私にできることは、それ以外に思いつかなかった。

 普通の人と違う。

 私だからできることは、いろんな効果を付与することだから。


  ◇◇◇


「なんだと? ライとレナが彼女の部屋に?」

「はい。朝方から部屋を覗いておりまして、お声がけしたのですがあっちに行けと突っぱねられてしまいました。見回りをしていた他の騎士の話だと、二人で中に入っていったそうです」

「そうか。報告感謝する。下がっていいぞ」

「はっ! では失礼いたします」


 執務室で仕事をしていたレイン殿下はため息をこぼす。

 テーブルの上の書類は未だ終わっていない。

 騎士からの報告を受けて、彼はおもむろに席を立つ。


「まったく困った奴らだ」


 双子がフィリスにちょっかいをかけている。

 誰よりも二人の性格を知っているレイン殿下だからこそ、彼らが何を考えているか手に取るようにわかる。


「大方、俺の妻に相応しいか見定めに行ったか」


 まさにその通り。

 幼い二人はわんぱくで、自身を好いていることを自覚している。

 故にこそ、突然の結婚によい印象を持っていないことも。

 加えてフィリスは奥手で、言われたことに素直に従ってしまう性格でもあった。

 

「余計なことを言っていなければいいが…」


 レイン殿下は急ぐ。

 フィリスの部屋前にたどり着くと、中から複数人の声が聞こえてきた。

 扉越しで何を話しているかはわからない。

 騒がしい様子に、言い合いになっている可能性も考慮する。

 レインはノックを省略して、そのまま扉を開けた。


「ライ! レナ! ここで何を――」

「すごーい! ボク浮いてるぞー!」

「私も私もー! ぐるぐる~」

「……やっているんだ?」


 レイン殿下は驚き言葉を失った。

 フィリスの周りをぐるぐると回るライオネスとレナリー。

 どう見ても仲良く遊んでいる。

 

「あ! 兄上!」

「お兄様-!」


 レインに気付いた二人が、フィリスの元からすっと離れていく。

 

「見て見て兄上! ボク空を飛んでるよ!」

「私のほうが高く飛んでますわ!」

「ボクのほうが高いぞ!」

「いきなり喧嘩するな。まったくお前たちは……」

「殿下もいらっしゃったんですね」


 レインの元へフィリスが歩み寄る。


「あ、ああ。こいつらがお前の部屋に入ったと聞いて様子を見に来たんだが……随分馴染んでいるな」

「はい。おかげさまでお二人とも仲良くなれました」

「兄上のお嫁さんすごいよ! 何でもできちゃうんだ!」

「さすがお兄様の奥さんですわ!」


 二人ともフィリスのことを認めている。

 予想とは違った光景に戸惑いつつも、レインは安堵する。

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