便所掃除人は宇宙の夢を見る
宇宙飛行士になりたかった
星が 月が 別に好きなわけではない
ただ漫然と 人並みに 淡い夢に焦がれていた頃
便器に張り付く誰のものとも知らぬ糞尿をブラシで削ると幼い夢が顔を出す
朝だというのに汗が落ちる
ここは 宇宙から一番遠い地点
宇宙服を着てシャトルに乗り込む
タイルをデッキブラシで磨く
無重力を泳いで旅する
便座をシートで拭きあげる
家族の待つ地球に帰還する
便所紙を三角に折る
宇宙から一番遠い地点に遠い記憶の宇宙を見る
現実に蹴り出されるようにまた今日が始まっていく
緩やかに下りはじめた人生は止められないまま