雨上がり
「やってみますね」
とはいえ、竜繭を出すのは眠る時だけだ。
子をあやすために竜繭を発するなんてできるのだろうか?
タツキの兄である男の子が、母親の後ろから不安そうにシュウを見ていた。
その不安を打ち消すように、にっこり笑ってみる。
男の子はさっと母親の後ろに隠れた。
シュウは集中してみる。
だが眠る時に出す竜繭はなかなか出せない。
深呼吸をし強引にリラックスしてみる。気持ちは緊張しているが、それは表には出さない。
緊張を押し隠し、気持ちを静かに、とにかくリラックス。
すると、それは出来た。
シュウはタツキを抱いたまま、自ら作った竜繭の中にいた。
シュウは、ハンモックで揺れるようにゆらゆら揺れてみた。
その感覚が嬉しいのか、タツキはきゃっきゃと笑い出す。
ひとしきり笑った後、満足したのか赤子はすーっと眠っていた。
その寝顔は安らかで、なんて平和的な光景だろう。
シュウはタツキの寝顔を見ていた。
* * *
雨が上がり――
池の前では何か揉めていた。
池の中に建っているはずの支柱が、池の畔に倒れていたからだ。
「支柱が動いたのか?」
解せぬという表情のブルがつぶやく。
「ちゃんとしてもらいたいね。釣りが出来なかったら一大事なんだから」
と、ホウセンカが嫌味っぽく言う。
「まあまあ、二人とも。今は原因究明のためにも喧嘩してる場合じゃないよ」
シュミットが割って入る。
シュミットは、ブルから直接聞いたわけではないが、この二人が犬猿の仲なのは察していた。
「なんか、血みたいのがない?」
と、シズクが池を指さす。
シズクの一言で、一同は騒然となる。
確かに、水が赤く濁ってるようにも見える。
「いや、まさか。雨水で増水して濁って見えるんだろう?」
取ってつけたようにシュミットが言う。
「おいおい、まさか、魚が大量死なんてことはないよな?」
言いながら、ホウセンカは飛び立とうとする。
ホウセンカは竜人で背中に翼がある。当然飛べる。
「あの、ボクです……」
ヤイノだった。
いつからそこにいたのか、ヤイノとタツキの二人がそこにいた。