赤子
* * *
シュウが生まれて初めて見たもの――それは自分が作り出した竜繭だった。
「お、起きた!?」
竜繭の向こうで、女が悲鳴のようなの声を上げる。
シュウは、丸い竜繭の中、だるま浮きの姿勢で空中を漂うように眠っていた。
目を開けたシュウは、大きく伸びをした。
竜繭を消し、直立の姿勢になり、床に降り立つ。
女は口に両手を当て、それ以上は何も言えないようだ。
「そんなに驚かないでよ、シズク」
シュウの記憶の中に、この女の情報はある。
シュウと同じシミュレーションドールのシズクだ。
男であるシュウとは反対に、シズクは女だ。
シュウより先に生まれていて、博士の助手も務めたりしている。
「……は、博士に報告!」
シズクは慌てた様子で研究室から出ていく。
シュウは研究室を見回す。
機械や工具がごちゃごちゃある。その用途はわかりかねるが、自分の記憶にある通りの室内だ。
機械であるシュウは、ある程度の記憶をプログラミングされて生まれてきた。
ふと、シュウはカレンダーを見た。
記憶の中にある日付と違っていた。
自分の誕生から一か月が経過していた。
――そういうことか。
さっき、シズクが驚いたのは一か月も遅くシュウが目を開けたからだ。
――よくスクラップにされなかったな。
シュウは自分の幸運に感謝していた。
*
シュウは、初めて抱く赤子にどぎまぎしていた。
名前はタツキ。
シュウと同じ日に生まれた竜人の子だ。
同じ日に生まれた竜人を抱くのは、ゲン担ぎみたいなものだそうだ。
「もう首が据わってるからそんなに緊張しなくても大丈夫」
タツキの母親がそんなことを言った。
タツキもその母親も竜人で、背中に翼がある。
首が座っていても、翼のある子は抱きづらかった。
赤子のタツキは、シュウの腕の中で、ふぎゃ~っと泣き出した。
シュウは揺らしてみるが、子は泣き止まない。
「この子は竜繭の中が好きなんですよ」
竜繭とは翼のある竜人が眠るときに、体から発する丸いバリアのようなもの。一般的に竜人はこれに包まれて眠る。