兄弟
そして、ヤイノはタツキに土下座した。
「タツキ! すまなかった!! スティナの気を引きたいがために犬に絡まれたお前を無視したりして!」
「え?」
落ち込んでたタツキはいきなりの兄の土下座に呆気に取られる。
「あ、いや、ヤイノだって犬怖かったんだろう。しょうがないよ。それにスティナの気を引きたいなら……え? 気を引きたい!?」
「うん。タツキもスティナが好きなんだろ?」
言いながら、ヤイノは赤面する。
一人の女の子が好きと打ち明けるのが、こんなに気恥ずかしいもんだとは思わなかった。
「え? まさか!」
さも意外というようにタツキは答えた。
「いや、まあ、照れる気持ちもわかるよ。だから、ボクも嫉妬というか、スティナがわざわざお前に会いに来たなんて知って……、その、つい意地悪というか…… とにかくごめん!」
「いやいや、頭上げろって。意味わかんないし」
「そもそも、好きじゃないし!」
ヤイノにとって、そのタツキの答えが意外だった。
「え?」
「え?」
「好きじゃない?」
ヤイノは頭を上げて、タツキの顔を見る。
「じゃあ、なんで、スティナはお前に会いに来たの?」
「……さあ? なんか、あの娘、距離感おかしいし」
「は!?」
思いがけず、スティナの悪口を聞かされヤイノは頭に来た。
「あ、いや、誰にでも親切な娘だから」
タツキは慌てて訂正した。
「うん、そうかも」
ヤイノが納得したようなので、タツキは会話を終わろうとしたのだが……
「じゃあ、なんで、お前、スティナが気になるって言ったの?」
「そりゃ、ゲートの管理してるなんて気にならないほうがおかしいよ」
「そういう意味?」
ヤイノは脱力する。納得して安堵する。
タツキとしては、スティナがシムと同じゲートの管理人であり、シムと親しいような話しぶりなのも気になっていた。
そのシムはさっきまですぐ近くにいたのに会えなかったわけで。タツキはまた落ち込む。
そんな兄弟の会話を、リューオスは微笑ましいものでもあるかのように聞いていた。
雨はいつしか上がっていた。