意気消沈
シムはどっちで帰るつもりだろう?
そのリューオスの疑問はすぐに解決した。
「たぶん使える」
家を出たシムは、魔導エレベータに入り込んだ。
「ヤイノをよろしくね」
「あぁ。わかった」
リューオスが言うと、シムは微笑む。
そうして、シムの姿は消えた。
地上へ帰ったのだろう。
*
リューオスがシムを見送ると、物凄い勢いでタツキが飛んで来た。
「い、今、シムがいなかった?」
息を切らしながら、タツキがリューオスにそう質問する。
「あぁ。今、帰ったとこ……」
「えー! なんで、なんで…なんで?」
大声を出したタツキは、リューオスにつかみかからんばかりの勢いで詰め寄る。
「なんで、引き止めてくれなかったの!?」
「そんなこと言われても……」
困り顔のリューオスに、タツキは意気消沈した。
「……俺だって、俺だってシムに会いたかった」
「電話は? 水鏡もあるし」
「うん、まあそうだけど」
小声でつぶやくタツキは、しぼんだ風船みたいだ。
「すぐ近くにいたなら会いたかった。シムは俺に会いたくなかったのかな?」
「いや、そうじゃないだろう。きっと用事があったんだろ」
リューオスもなんとなく引っ掛かってはいた。
地上で会って話した感じでは、シムはタツキと懇意にしているような印象だった。
会いたいけど照れくさくて敬遠してしまう、そんな心理だろうか、なんて思ったりもした。
「それより、何の用事で来たんだ?」
「ヤイノを探してたんだ。雨降ってるのに帰って来ないから」
* * *
「そのヤイノなら、うちにいるよ」
言いながら、リューオスはタツキに家に入るよう促す。
家に入ると、竜繭で寝てるかと思ったヤイノは本を読んでいた。
リューオスの親が残した本で、大噴火の際にほとんど焼けてしまったが、何冊か残っていた。
ただリューオスにとってはまったく趣味ではない本で、ほとんど手をつけたことはなかった。
「起きたんだ。体は大丈夫か?」
リューオスが声を掛けると、ヤイノははっとしてタツキを見た。