竜繭
「怪我も治ったし、このまま、おうちにつれてくね」
少年は背中のヤイノに説明する。
「……じゃなくて、リューオスさんのとこへ……」
弱々しい声だが、確かにヤイノはそう言った。
少年は少し腑に落ちない気持ちだったが、ヤイノの希望通りにすることにした。
* * *
雨が降ると畑に出るでもなく家でごろごろするのが、リューオスの日課だ。
シズクに電話でもしてみようかと思ったが、魔導エレベータの暴走だったり、池の中にゲートがあったりと、その関係でいそがしそうだ。
魔導エレベータの暴走に巻き込まれたリューオスとしては、あんな思いは二度とごめんだ。
そのためには、シズクにも是非頑張ってもらいたい。
ふと、竜繭を出してみようかと思った。
竜人であるリューオスは寝る時、自ら竜繭という球体のバリアのようなものを出して眠る。
魔導エレベータが暴走して地上に行ってしまった時、竜繭を出すことを閃き、酸素の薄い中なんとか生還したのだ。
起きてる時でも竜繭は出せるだろうか?
それは出来た。
竜繭を出したままなら、雨に当たっても濡れないのでは?
そんな疑問を抱き、リューオスは外に出た。
そこに、ヤイノをおんぶしているシムがいた。
* * *
「で、なんで、俺の家なわけ?」
リューオスは、突然の訪問者に戸惑っていた。
その疑問にさも意外という風にシムが答えた。
「ヤイノがそう言ったんだけど?」
「ヤイノが?」
リューオスはヤイノの寝顔を見る。
ヤイノはといえば、さっきまで竜繭も出さずシムの背中で寝ていたが、今は竜繭に包まって寝ている。
さっきより体力が回復している証拠だ。
「池で怪我して溺れてて、助けたら、リューオスの家にって……」
「あー、なるほど……とはならないよ。怪我して溺れた?」
「ゲートを池から出す際に支柱を建てたんでしょ? ヤイノの翼が柱の下敷きになってて。まあ、間一髪、間に合ってよかった」
リューオスは息を飲んだ。
「それってかなりの大事故じゃ……」
「うん、僕もびっくりした」
魔導エレベータの暴走のエピソードについては、機械仕掛けの魔法使い~テッドの舟~をご覧ください。