待機
地震・火山に関する描写があります。
* * *
「本当に大きくなったね。リリー」
隣に歩くクロンカイトを見ながら、少年はつぶやいた。
「なんか照れるから、リリーはやめてくれ」
ということなので、少年はクロンカイトと呼ぶことにした。
「んで、坊やの名前はなんだっけ?」
少年は、クロンカイトにはシムと名乗っておいた。
まあ、嘘ではない。
今の少年はシムとして生きているわけだし。
「しかし、立派になったね。あわやテロリストも真っ青の事態を引き起こした子どもが、暴走した魔導エレベータの残りを処分するようになったんだから」
過去の恥部をさらされたのと、褒められたので、クロンカイトは赤くなっていた。
幸い、ヘルメットのおかげで少年は気づいてなかったが。
「これ、一人でやるなんて……」
少年は純粋に感心していた。
「いや、一応、仲間が待機してくれてる」
「仲間?」
少年は、もしやと思った。
そして、それは的中する。
「アッゼってんだ。居住区に住んでたらしんだけど……」
「知り合いじゃないの?」
クロンカイトの質問にどう答えたもんか、少年は困った。
アッゼ・ランカード。
少年の大親友とも言える。
大噴火の日、奇跡的に生き残っていた。
*
突然の大きな地震と噴火。
辺り一面熱くなる。
居住区の地面が大きく割れた。割れは何か所も発生していた。
最悪なことに火山ガスが噴き出している。
竜人も人間もばたばた倒れている。
空へ飛び立った竜人もいたが、ばたばた落ちて来た。
なす術なく、少年は呆然とした。
そしてまた噴火が起きた。
火山岩が飛んで来た。
それも、魔導エレベータめがけて。
少年は咄嗟に魔導エレベータの前に立ちはだかる。
魔導エレベータはなんとか無事だった。
気づくと、少年の右手がなかった。
――利き手がやられたか。
どこかに生存者はいないか歩き出すと、そこで少年の膝ががっくり折れそうになる。
――今ので膝も……
そうまでして、この魔導エレベータを残しておく意味はあっただろうか。
少年は気配を探る。