完成
*
シズクとともに眠る少年を見ているのは、ラン博士だ。
ラン博士が焦っていた。
シズクはその理由を知っていた。
機械の少年がいつまで経っても目を醒まさないからだ。
「竜繭で眠るシミュレーションドール、ムリがあったか……」
シミュレーションドール、元々はドワーフが作り出した機械の人間。人間や竜人が少しずつ改良していった。
そして、今。
ランは竜人に近いシミュレーションドールを作りたかったのだ。
それは成功したかのように思われた。
シズクもその誕生を楽しみにしていた。
だが、完成したはずの機械の少年は一向に目を醒まさない。
竜繭に包まったまま眠り続けていた。
三日目ぐらいまでは、そろそろ目覚めるんじゃないかと思っていた。
一週間経つと心配になってきた。
十日ぐらい経つと、強引にでも起こそうかということになる。
大きな音を出したり、揺すぶってみたりするが、目を醒まさなかった。
ランもシズクも諦めたわけではなかったが、もう目を醒まさないんじゃないか、もはや眠ってる少年を見るのがいつもの日常になった頃。
それは突然やってきた。
少年が目を醒ましたのだ。
声も出ないシズクに対し、少年は優雅なものだった。
竜繭を消し、すくっと立っていた。
そして、シズクの名前を呼んだのだ。
ということは記憶がしっかりしている。
何も不具合はなさそうだ。
その後は駆け付けたラン博士とシズクは、少年に抱きついて喜んでいた。
それだけ二人は、少年の誕生が嬉しかったのだ。
*
「シズク?」
リューオスが心配げに顔を覗き込んで来る。
「……弟ですって?」
シズクがつぶやく。
シムなんて子は、シズクは知らない。
「シムが言ってたよ。天空岩で生まれてシズクの弟みたいなもんだって」
「………」
リューオスの言葉にシズクは黙り込む。
あの竜繭で眠る少年はシムではない。
あの子の名前は……
いや、名前は問題ではない。
シズクの弟みたいな存在は一人しかいない。
「あの子、生きてたんだ」
そう実感すると、本当に嬉しいシズクだった。
その子に会いに行こう!
と立ち上がるが、急にそわそわしてしまう。
会って変なことを言ってしまいそう。
まずは気持ちを落ち着けよう。
そのためには……
博士に報告しよう。
亡くなってる博士への報告、すなわち墓参りに行くことにした。
「そろそろ、おいとまするわ」
と、シズクは立ち上がる。
「ヤイノもいつでも本を借りに来て」
言葉をかけるがヤイノはあいかわらず読書に没頭したまま。
「本当に感心だわ」
シズクのつぶやきに、リューオスも同意だった。




