逡巡
メノウは本当に美味しそうに桃を食べていた。
タツキももう充分に桃を食べたのだが、隣で美味しそうに桃を食べてるのを見ると、また欲しくなった。
そんなタツキに、メノウが紙袋を渡す。
タツキはまた桃を食べた。
「美味しいね。これ、リューオスの畑の桃なの?」
メノウがそんなことを聞いて来た。
「う!……うん」
答えるタツキの歯切れが悪かった。
そもそもメノウに渡すはずの桃を自分が食べてしまっていたからだ。
気づけば、袋の中の桃は残り二つ。
「上げるよ」
タツキは桃の入った袋をメノウに渡す。
「いいの?」
「うん、きっと桃もメノウが食べた方が喜ぶよ」
タツキば訳の分からないことを言っていた。
「なんで、私の名前知ってるの?」
「あ……」
タツキはそこで気づいた。
水鏡で見たからタツキはメノウのことを知っていたが、メノウとは初対面なのだ。
「地上に行っちゃってリューオスに助けられた女の子でしょ? リューオスに……」
桃を渡すよう頼まれた、と言おうとしてタツキは固まった。
その桃を盗み食いしたのがバレてしまう。
いやいや、ここは正直に言うべきか?
タツキが逡巡してるのをメノウは不思議に思っていた。
* * *
――まあ、なるようにしかならない。
シムが消えて焦ってる少年だったが、最近はそんな風に思うようになった。
少年は居住区へと帰ることにする。
赤茶けた大地が続く。
あいかわらず、生物のいない大地。
時折見かける虫も今日は見かけない。
少年は少し寄り道をした。
以前見つけた苔のような植物のあった場所。
苔らしきものはあったが枯れていた。枯れた植物が干からびて粉々になって消え去るのも時間の問題だろう。
少年はふとした不安にかられる。
――まさか、シムも消えたりしないよね?
その時だった。
ドカーンと爆発音のようなものが轟く。
――また噴火かな。
少年は音の方向を見る。
そして、愕然となった。
人の気配がするからだ。
まさか、またタツキが天空岩から落ちてきたのだろうか。
少年はそちらの方向へと急ぐのだった。




